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「結婚したら、普通はこうするでしょう」。親との会話でも、恋人との相談でも、この一言で話が止まることがあります。けれど、その「普通」は、誰が、いつ、どのような暮らしを前提に作ったものでしょうか。
結婚の価値観の変化は、結婚が不要になったという一方向の話ではありません。結婚を当然とする考え方が弱まる一方で、結婚に何を望み、どのように暮らすかを当事者が話し合う必要が増している、と捉えると整理しやすくなります。
社会学の「脱制度化」という考え方と、2025年実施の出生動向基本調査を手がかりに、結婚観の変化を読み解きます。統計で確認できること、米国を対象とした理論、そこから本稿が提案する暮らしの考え方は区別します。結婚する人にも、しない人にも、一つの生き方を勧めるための記事ではありません。
- 結婚への意欲が下がったことと、愛情が不要になったことは別です。
- 価値観・法律や制度・実際の暮らしは、同じ速度では変わりません。
- 「自由に選べる」と「選択を実現できる条件がある」は別の問題です。
- 結婚の有無だけでなく、仕事・お金・ケア・親族との関係を具体的に話します。
結婚の価値観はどう変わったのか――まず統計で確認
国立社会保障・人口問題研究所の第17回出生動向基本調査では、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と回答した割合は、男性75.1%、女性77.8%でした。前回の2021年調査から、それぞれ6.3ポイント、6.5ポイント下がっています。[1]
| 調査年 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 2015年 | 85.7% | 89.3% |
| 2021年 | 81.4% | 84.3% |
| 2025年 | 75.1% | 77.8% |
対象は18~34歳の未婚者。「いずれ結婚するつもり」の回答割合。2015・2021年は第16回結果概要、2025年は第17回結果概要によります。[2][1]
この表から読めるのは、若い未婚者の結婚意欲が、調査時点の集計では低下していることです。「若者はみんな結婚したくない」とも、「結婚を望む人は必ず結婚する」とも読めません。なお、ポイント差は割合どうしの引き算であり、「6.3%減」と同じ意味ではありません。
また、同じ人を追跡して気持ちの変化を測った表ではありません。年代構成や回答者の違いもあるため、ある個人が10年間でどう変わったかを示す数字として使うことはできません。35歳以上を含む社会全体の意思を、この表だけで代表させることも避ける必要があります。
第17回調査は2025年6月30日現在の事実を尋ね、全国から無作為に選ばれた1,000調査区で実施されました。独身者調査全体の有効票は6,756票、有効回収率は42.7%です。この全体票数は、上表の18~34歳未婚者だけの人数ではありません。[1]
「結婚離れ」だけでは見落とす、結婚に求めるもの
同調査の概要では、結婚に利点があるとする割合が低下する一方、利点の項目では「愛情感じる人と暮らせる」が増加したと報告されています。結婚への評価は、すべての側面で同じ方向に動いているわけではありません。[1]
ここから本稿が重視するのは、結婚という形への評価と、誰かと暮らすことへの希望を分けて考えることです。「結婚はまだ考えられない」と言う人が、親密な関係まで拒んでいるとは限りません。逆に、結婚を望んでいても、生活費や働き方への不安が解消しているとは限りません。
| 混同しやすい問い | 実際に確かめたいこと |
|---|---|
| 結婚したい? | どんな関係や暮らしを望んでいるか |
| 結婚できる? | 住まい、収入、時間などの条件が整うか |
| 結婚すべき? | 誰の期待を自分の義務として受け止めているか |
| 結婚したら幸せ? | どの負担を分け、どの希望を守れるか |
「したい」「できる」「すべき」は似た言葉ですが、答え方が違います。お金の不安に対して「もっと自分らしく選べばいい」と返しても、問題は動きません。親の期待に疲れている人へ家計表だけを渡しても、気持ちの置き場所はできません。まず、いま話している問いをそろえることが必要です。
社会学の「結婚の脱制度化」とは何か
Cherlin(2004)は、米国の結婚について、夫婦の行動を方向づける社会規範が弱まることを「脱制度化」として論じました。結婚すれば当然に決まるとされていた役割や振る舞いが、自明ではなくなるという視点です。婚姻制度そのものが消滅した、という意味ではありません。[3]
たとえば「結婚したのだから、家事はどちらがするか説明しなくてもわかるはず」という前提が共有されなければ、役割は話し合わなければ決まりません。誰が働くかだけでなく、どちらの仕事を優先するか、親族との行事にどこまで参加するかも、当事者の選択として問われます。これは理論を日常に置き換えた例であり、日本の全世帯の変化を測った結果ではありません。
制度・規範・生活を、一つの言葉にまとめない
| 見る層 | たとえば | 変化を確かめる方法 |
|---|---|---|
| 規範・価値観 | 結婚は当然か、夫婦はこうあるべきか | 意識調査、会話、社会学の議論 |
| 法律・公的制度 | 婚姻に伴う扱い、手続き、保障 | 現行の法令と公的窓口の案内 |
| 生活の実態 | 収入、家事、介護、働く時間 | 家計、時間の記録、実態調査 |
| 関係の合意 | 何を分け、何を各自に任せるか | 当事者の具体的な相談 |
この区分は本稿の整理です。価値観が多様になったからといって、どの関係でも同じ制度上の扱いを受けるとは限りません。一方、制度を利用できることだけで、家事の分担や日々の尊重が保証されるわけでもありません。手続きや権利の判断が必要な場面では、思想の議論とは分けて、最新の公的情報や専門家に確認します。
結婚の意味が薄れる一方で、象徴として重くなることもある
2004年論文には、結婚の実用的な重要性が下がる一方、象徴的な意味は強く残り、達成や地位を示すものになりうるという議論もあります。米国をめぐる理論的な議論であり、結婚式の規模から個人の心理を判定する話ではありません。[3]
この視点が面白いのは、「当たり前ではなくなったものは、軽くなるはずだ」という予想を裏切るところです。誰もが通る道だと思われなくなるほど、選んだ理由や、準備が整ったことの意味が大きくなる場合があります。自由になったから気楽になる、と単純には言えません。
ただし、脱制度化は「昔から今へ」の一本道ではない
Cherlin自身の2020年の再検討は、脱制度化の進み方が一様ではないことを指摘しています。米国では学歴層による違いがあり、結婚の外側の親密な関係には変化が見られる一方、結婚内部の夫婦の振る舞いは、脱制度化したと結論づけるほど変わっていないと評価しました。[4]
したがって、「昔は家のため、今は自分のため」と二分すると、現実を取りこぼします。親族を大切にしながら自分の希望も守る人はいますし、自分で相手を選んだ結婚でも、暮らし始めてから固定的な役割が強まることは考えられます。選び方が変わることと、続け方が変わることは別です。
ここまでの理論は米国を対象とした議論です。日本の調査に重ねるときは、似ている点を探すための問いとして使い、同じ歴史をたどっている証拠として扱わないことが大切です。2025年の意識調査だけから、社会全体が脱制度化したと断定することもできません。
本稿の見方――結婚の自由には、二つの場面がある
一つは、結婚するか、しないかを選ぶ場面。もう一つは、関係の中で、暮らし方を提案し直せる場面です。入口で自分の意思を尊重されても、その後に仕事や友人関係を一方的に諦めるよう求められるなら、生活の自由は十分とは言えません。
これは既存研究で検証された尺度ではなく、本稿が提案する見方です。結婚の形を選ぶことだけに注目すると、決定後の日常が見えにくくなります。結婚の有無を問わず、「困ったら相談できるか」「決めた役割を見直せるか」まで考えることで、選択が暮らしにつながります。
「自律」は、誰にも頼らないことではない
自分で決めることを重視すると、助けを借りることまで弱さのように感じる場合があります。しかし、病気や介護、失業、忙しい時期には、支えが必要です。自律を「一人ですべて処理すること」と定義してしまうと、負担の大きい人ほど自由から遠ざかります。
実用上は、自分の希望を言葉にできること、頼みごとを断れること、支え方を相談できることを目安にするとよいでしょう。「助けてもらったのだから、これからの希望は言えない」という関係では、援助が長期の沈黙と引き換えになってしまいます。
選択肢の数より、選び直すための条件
たとえば二人とも仕事を続けたいと考えていても、通勤時間や家事を担う時間が調整できなければ、希望だけでは続きません。価値観が一致しているのに揉めるときは、愛情の不足だけでなく、実行する条件が不足していないかも確かめます。
家事の分担を具体化したい場合は、共働きの家事分担で衝突するときの整理も参考にしてください。担当名だけでなく、気づく・準備する・終わらせるところまで見えるようにします。
「自分たちの結婚」を考える五つの話題
最初から理想の夫婦像を一致させる必要はありません。「思いやりを持とう」という結論で終わらせず、来月の暮らしで確かめられるところまで具体化します。以下は、本稿の相談用の例です。結婚前の審査表でも、守れなければ失格になる約束でもありません。
| 話題 | 具体的な問い | 残しておくもの |
|---|---|---|
| 仕事と住まい | 転勤や繁忙期が重なったら、何を優先する? | 各自の譲れない条件と再相談の日 |
| お金 | 共同の費用と各自のお金をどう分ける? | 負担額だけでなく、手元に残る余裕 |
| 家事・ケア | 普段の担当者ができないとき、誰が代わる? | 代替手段、外部支援を検討する条件 |
| 親族との関係 | 帰省、連絡、援助の希望はどこまで共有する? | 当事者二人で決める範囲 |
| 個人の時間 | 友人、趣味、一人で休む時間をどう守る? | 干渉しない範囲と連絡の目安 |
出産や子育てを望むかどうかは、当然の前提にせず、必要なときに独立した話題として扱います。望みが違う場合、片方がいずれ変わることを約束の代わりにしないことが重要です。決まらないことがあるなら、「未決定」として残せます。
架空の例:価値観は同じでも、予定表が違う
AさんとBさんは、ともに「仕事を続ける結婚」を望んでいます。しかしAさんの通勤は片道90分、Bさんは在宅中心です。家事を半分ずつという言葉だけで決めると、実行する時刻や、緊急の対応が見えません。
相談の入口は、「どちらが公平な人か」ではなく、「平日の夕方に何が発生するか」です。在宅だから常に動けるわけでも、通勤しているから家の管理を免除されるわけでもありません。買い物、献立、片づけを分けて、勤務中にできないことも含めて予定を確認します。
- 各自が、守りたいことを二つだけ先に書きます。
- 共同で必要な作業を、担当者ではなく作業名で並べます。
- 頻度・期限・できない日の代替を一つずつ決めます。
- まず試す期間を置き、負担が偏ったら見直す日を決めます。
家計の話を進める際は、結婚と資産形成のリスクを考える記事も併せてどうぞ。結婚という名前だけで安心と決めず、生活費と備えを具体的に確認します。
親の価値観と違うとき、説得より先に分けたいこと
「親の世代は古い」で終わらせると、親が心配している内容まで聞こえなくなります。一方、「心配してくれているのだから」と、当事者の希望をすべて譲る必要もありません。心配の内容と、決定する権限を分けて話します。
| 言われた言葉 | 確認したい中身 | 返答の例 |
|---|---|---|
| 早く結婚したほうがいい | 孤独、生活、世間体のどれが心配か | 何が一番心配なのかは聞きたい。時期は自分で考えたい |
| 結婚したら仕事はどうするの | 家事や育児の実行条件か、役割の期待か | 働き続ける希望がある。暮らしの分担は二人で相談する |
| 親戚にはどう説明するの | 説明の負担と、本人の選択が混ざっていないか | 伝えてよい範囲を一緒に決めたい |
| 普通の家庭にしてほしい | 「普通」が指す具体的なことは何か | 何を想像しているか教えてほしい。同じ形にするとは約束できない |
上の返答は会話例です。説明を重ねても否定が続く場合には、話す時間や共有する情報を減らすことも選択肢です。自分の選択を認めてもらうために、生活のすべてを公開する必要はありません。
場面別ガイド――いまの迷いから考える
結婚したいのか、期待に応えたいのかわからない
「誰にも報告しなくてよいとしたら、どんな暮らしを望むか」と一度書いてみます。そのうえで、親や周囲に認めてほしい気持ちも別に書きます。どちらかを偽物と決めず、二つの希望を分けるための問いです。
恋人と「普通」が食い違う
「普通はそうする」を、誰が何をいつするかに言い換えます。たとえば帰省なら、回数、泊まる日数、費用、参加しない選択を具体化します。抽象的な家族観より、合意できる範囲が見えることがあります。
結婚したいが、生活条件が厳しい
希望を否定する前に、住居費、働く時間、移動、支援の有無など、難しさを項目に分けます。二人で調整できることと、職場や公的窓口への相談が必要なことを区別します。気持ちの強さだけで条件を埋めようとしません。
結婚しない選択を、毎回説明するのがつらい
「今はその予定はありません」「必要になったら自分から話します」のように、短い返答を用意してもかまいません。詳しい理由を話す相手と、結論だけ伝える相手を分けられます。
結婚後、決めた役割を変えたくなった
以前の合意を破った人探しから始めず、変わった条件を伝えます。「勤務時間が変わったので、平日の担当を見直したい」のように、事実と提案をセットにします。合意は生活を支えるためのもので、変化を封じるためのものではありません。
結婚の「当たり前」を、歴史から考える一冊
阪井裕一郎『結婚の社会学』(ちくま新書、2024年)は、結婚の近代史・現代史に加え、離婚と再婚、事実婚と夫婦別姓、セクシュアル・マイノリティと結婚を扱う本です。出版社の内容紹介と目次から、いまの常識を歴史や社会との関係で考えたい読者に向く一冊として紹介します。[5]
「自分たちだけが普通から外れているのでは」と感じるとき、視点を広げる読書に向いています。一方、個別の手続きや現在の制度適用を調べたい場合は、この本だけで判断せず最新の公的案内も確認してください。購入先では紙・電子の形式、価格、在庫をご確認ください。
よくある質問
- Q結婚の価値観が変わったのは、若者が自分勝手になったから?
- A
今回紹介した調査だけで、そのような原因は判断できません。結婚意欲の変化と、個人の人格評価は別です。希望、生活条件、社会的な期待を分けて考える必要があります。
- Q結婚の脱制度化は、法律上の結婚がなくなるという意味?
- A
ここで紹介した社会学の議論では、夫婦の行動を方向づける社会規範が弱まることを指します。法律の廃止を意味する言葉ではありません。また、変化の程度や対象には研究上の再検討があります。
- Q恋人と結婚観が違ったら、結婚は難しい?
- A
違う内容によります。生活の分担など相談できる点もあれば、出産の希望や生き方など、簡単には折り合えない点もあります。どちらかがいつか変わると決めつけず、具体的な違いを確認することが先です。
- Q2025年の結婚意欲の数字は、将来結婚する割合?
- A
いいえ。調査時点で18~34歳の未婚者が回答した意向の割合です。将来の婚姻率の予測や、個人の将来を決める数字ではありません。
結婚の形より、暮らしを話し合えること
結婚への意欲が変化していても、そこから一人ひとりの正解は決まりません。社会学が役立つのは、「普通だから従うしかない」と思っていた前提を、問い直せるところです。
結婚するかどうかを選ぶこと。その選択のあとも、暮らしを相談し直せること。この二つを分けて考えると、「家のためか、自分のためか」の二択から少し離れられます。周囲とのつながりを大切にしながら、当事者の希望を消さない。その具体的な方法は、二人の生活の中で作っていけます。
参考資料・研究の位置づけ
[1]国立社会保障・人口問題研究所:第17回出生動向基本調査(2025年調査)結果の概要
[2]国立社会保障・人口問題研究所:第16回出生動向基本調査(2021年調査)結果の概要
情報確認日:2026年10月30日。調査結果は集計対象と調査年を区別して記載しました。Cherlinの論文は米国の結婚を論じた研究です。相談表・会話例・場面別ガイドは本稿の提案であり、検証済みの介入プログラムではありません。
