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「もう少し条件を下げたほうがいい」。婚活をしていると、助言のような顔をした難問がやってきます。どの条件を、どこまで。そこが分からないままでは、親切な一言も宿題を増やすだけです。
一方で、数学には「最初の37%を見送る」という有名なルールがあります。数字が出てくると、急に頼もしく見えます。けれど、結婚相手を決める時期まで計算できるのでしょうか。
婚活の妥協を、確率だけで決めることはできません。ただし、確率論は「何を分かったつもりになっているか」を見抜く道具になります。順位が高い相手を選ぶこと、条件が合うこと、互いに結婚したいこと、一緒に暮らせること。この四つは、同じ出来事ではありません。
この記事の結論
譲れないのは「どんな暮らしを守りたいか」。見直せるのは、それを確かめるために置いた条件です。37%や3.8%という数字を自分の結婚確率に置き換えず、条件の理由と、まだ知らないことを分けて考えます。
婚活の「妥協」を三つに分ける
「妥協した」という言葉には、ずいぶん違う経験が入っています。理想の身長から外れた人と会ったことも、住む場所を話し合ったことも、嫌な言動を我慢したことも、同じ言葉で呼ばれがちです。
ところが、判断としては別物です。前者は入口を広げること、次は双方で生活を調整すること、最後は自分を傷つける扱いを受け入れることかもしれません。まず、ひとまとめにするのをやめます。
| 判断 | 例 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 入口の目安を変える | 身長や趣味の条件を広げる | その条件は、何を確かめるためだったか |
| 生活を調整する | 住まいや休日を話し合う | 双方が納得して選べるか |
| 大切な希望を押し込める | 嫌な言動を我慢し続ける | 尊重や同意が失われていないか |
この区別は、誰にでも同じ優先順位を配るためのものではありません。子どもを望むか、どこで暮らすか、仕事を続けたいか。人によっては交際の早い段階で確かめたい、重要な希望です。「条件を減らせばよい」と一律には言えません。
見直したいのは、条件そのものより条件と目的のつながりです。年収の数字が欲しいのか、家計の見通しが欲しいのか。同じ趣味の人がいいのか、一緒に楽しむ時間が欲しいのか。その違いによって、聞くべきことが変わります。
37%ルールとは?数学が解く問いの範囲

37%ルールは、最適停止問題の一つである「秘書問題」で知られる考え方です。典型的な設定では候補者の総数が分かっていて、登場順はランダム。一度断ると戻れず、その時点までの相対的な順位を使って、一番よい候補を選ぶ確率を最大にします。[1]
最初の一定人数は観察に使い、その後で、それまでの全員を上回る最初の候補を選ぶ。候補数が非常に大きくなると、見送る割合も、最良の一人を選べる確率も約36.8%に近づきます。[1]
ここでの「成功」は、全候補のうち一番を選ぶことです。二番目の人を選んでも、この設定では成功に数えません。反対に、婚活で二番目という順位そのものを決められるでしょうか。休日の過ごし方、安心感、仕事への理解。評価する軸を変えると、並び順も変わります。
37%を結婚の期限にしない
37%は結婚生活がうまくいく確率ではありません。「37人と会う」「恋愛できる年齢の37%で決める」という指示でもありません。総数や順序などの前提が違えば、そのまま使える答えではなくなります。
候補が10人なら、最初の3人を見送る計算
| 候補数 | 最初に見送る人数 | 最良の一人を選ぶ確率 |
|---|---|---|
| 3人 | 1人 | 50.00% |
| 5人 | 2人 | 43.33% |
| 10人 | 3人 | 39.87% |
| 20人 | 7人 | 38.42% |
| 50人 | 18人 | 37.43% |
| 100人 | 37人 | 37.10% |
文献[1]の式による計算。結婚・交際の成功率ではありません。候補数が既知、順序がランダム、再選択不可などの前提に限ります。
表は同じ数学モデルで計算した値です。人数に0.37を掛けて丸めただけではありません。見送り人数を変え、それぞれの確率を比べています。少人数の問題では、無限に近い人数についての近似と差が出ます。
計算式と検算方法
候補数を n、最初に見送る人数を r とすると、1 ≤ r < n について、P(r) = (r/n) × Σk=rn−1(1/k)。r=0なら最初の候補を選ぶためP(0)=1/nです。
各nでrを0からn−1まで変え、最大値を採用しました。n=2〜7は全ての登場順を列挙した結果とも照合しています。同じ最大値がある場合は小さいrを表示します。
この計算が教えてくれるのは、婚活で何人断ればよいかではなく、答えは目的と前提に従って変わるということです。「最良を取り逃さない」と「納得できる生活をつくる」を、同じ目的として計算するわけにはいきません。
現実の婚活では、相手にも選ぶ権利がある
数学の設定から現実へ戻ると、見落とせない違いがあります。自分が選んでも、相手が選ぶとは限りません。会える人数の上限も分かりません。紹介、アプリ、友人のつながりでは、出会う集団も順序も違います。
双方が選ぶ秘書問題を扱ったErikssonらの研究は、相互の意思決定を組み込むと問題の構造が変わることを示す理論研究です。そこでの目的や条件も、古典的な問題とは異なります。婚活の実績を測った調査ではありません。[2]

現実には、もう一度会って分かることもあります。初回は緊張していた、忙しいときの連絡の仕方が見えた、意見が違っても話を聞いてくれた。比較対象が増えるだけでなく、一人についての情報が増えるのです。
Joelらの二つのスピードデート研究では、事前の100項目以上の特性・好みから、誰が誰に特有の魅力を感じるかを予測することはできませんでした。対象は短い対面での初期の魅力です。「相性は永久に予測不能」「プロフィールは無意味」とまで言う結果ではありません。[3]
だからこそ、書類で分かることと、会話や行動から確かめることを分けます。条件欄を埋め尽くしても、未確認のことが消えるわけではありません。逆に、強く惹かれたからといって、生活上の合意が済んだことにもなりません。
初対面の特別な感覚については、運命の人の科学的根拠と、関係を育てる心理学でも、感情と将来の見通しを分けて考えています。
「条件が合う確率」と「結婚できる確率」の違い
条件を増やすと、すべてを満たす候補は増えません。ただし、「条件Aが20%、条件Bが30%だから、両方に合う人は6%」とすぐに掛け算できるわけではありません。
それぞれの条件が独立なら、その掛け算が成り立ちます。独立でない場合は、Aに当てはまる人の中でBにも当てはまる割合を使います。学歴と年収のように関係しうる項目を、別々の袋から引くくじのように扱うと、推定を誤ります。
P(AかつB) = P(A) × P(B|A)
架空の100人のうちAに合う人が20人。その20人の半分がBにも合うなら、両方に合う人は10人、全体の10%です。全体でのBの割合を掛けるとは限りません。
計算を説明するための仮定で、婚活市場の実測値ではありません。さらに、全国の人口、同年代の未婚者、あるサービスの会員、実際に会える人は別の集団です。割合を読むときは分子だけでなく、分母を見ます。「何%の人が条件に合うか」の前に、「どの人たちの中でか」が必要です。
日本の研究に出てくる「3.8%」の読み方
鈴木亘・八代尚宏の2025年の論文は、25〜49歳の独身者1万人を対象とした2024年のオンライン調査を用い、年齢・収入・就業形態・学歴・身長・体型の条件を分析しています。相互に条件が一致する割合として3.8%を報告しています。[4]
これは実際の成婚を追跡した確率ではありません。結婚を望む人だけの調査でもなく、六つの属性に会話の相性や家事への考え方などがすべて入っているわけでもありません。オンライン調査の標本と補正の方法にも留意が必要です。[4]
3.8%は、あなたの将来の数字ではない
条件の相互一致と、出会い、好意、交際、結婚は別です。この値から「自分は96.2%の確率で結婚できない」と計算することはできません。
この研究を読む利点は、「自分の希望に合う人がいる」と「互いの希望が合う」を区別できることです。ただ、数字が小さいからといって大切な希望を撤回すべきだという結論にはなりません。条件の合致は、人の価値を測るものでもありません。
妥協より先に、条件が守っているものを確かめる
ここからは、研究を踏まえた実用上の整理です。結婚の成否を予測する検証済みの尺度ではありません。条件を「下げるか、守るか」の二択にせず、守りたい生活、入口の目安、まだ知らないことに分けます。
年収の希望を、家計と働き方の話へ
たとえば「一定の年収がある人」という希望の理由が、生活の安定だとします。金額を確認する意味はあります。ただ、それだけで支出、借入れ、貯蓄の考え方、転職の予定、家事の分担までは分かりません。
希望額を黙って下げるより、「二人でどんな生活費を想定しているか」「仕事が変わったときにどう相談したいか」を話せる相手か考えます。初対面から細かな資産情報を求める必要はありません。関係の段階に応じて、お互いが話せる範囲で具体化します。
これは収入を軽く見る話ではありません。一つの数字に背負わせていた役割を、実際に必要な情報へ分ける話です。
共通の趣味より、違いがある日の過ごし方
同じ映画が好きなら、話は弾みやすいでしょう。ただ、毎日が映画祭というわけではありません。片方が疲れている日、別々に過ごしたい休日、予定が変わったとき。そういう普通の日も続きます。
「趣味が同じ」を条件にする理由が一緒に楽しめることなら、違う趣味に関心を持ってくれるか、別行動を尊重できるかも手がかりになります。共通点を捨てなくても、楽しみ方の候補は増やせます。
子ども・住まい・尊重は、曖昧にしたまま進めない

生活の大きな希望が違うとき、「結婚すれば変わるはず」で話を済ませるのは危うい判断です。変わるかもしれない希望と、今すでに一致している希望は別です。相手に考えを変える義務もありません。
また、断ったときに怒る、嫌だと伝えても繰り返す、といった行動を、条件がよいからという理由で小さく扱う必要はありません。候補を増やすための柔軟さと、尊重されない扱いを引き受けることは分けてください。
「次ならもっとよい人」と「今を逃したら終わり」の間
婚活では、反対方向の二つの考えが強くなることがあります。「もっとよい人がいるはず」で目の前の関係を見られなくなること。そして「もう誰にも会えない」で、納得できない関係を手放せなくなることです。
Spielmannらの研究では、独身でいることへの恐れが、不満のある関係への依存や別れを自分から切り出しにくいことなどと関連しました。本人が口にする条件と、実際の選択が一致しない可能性も示されています。恐れを感じる人が全員同じ選択をするという意味ではありません。[5]
「私は理想が高すぎるのか」と性格の裁判を始めるより、最近の判断を一つ取り出すほうが役立ちます。何が嫌だったのか。何がまだ分からなかったのか。比較が止まらなかったのか、焦っていたのか。理由が違えば、次の一手も変わります。
候補を比べ続けて決めづらい場合は、婚活で選択肢が多いほど迷う心理を。会うこと自体が負担になっている場合は、婚活疲れを心理学から整理する記事も参考になります。
条件を見直すための四つのメモ

一度に全部の条件を変えると、何が判断に役立ったのか分からなくなります。まずは迷っている条件を一つだけ選んでください。以下は相性診断ではなく、次の会話を考えるためのメモです。
書いたあとで「この条件はやはり大切だ」と感じても構いません。見直すとは、必ず緩めることではありません。理由を確かめて残すのも、根拠のある見直しです。
また、「情報が足りないからもう一度会う」と「気が進まないのに義務で会う」は違います。双方が望む範囲で、小さく確かめます。会う回数だけを達成目標にしないほうが、何のための婚活かを見失わずに済みます。
一人で整理しにくいときの相談先
希望条件を言葉にするのが難しい場合は、条件整理や活動中の相談を受けられる結婚相談所も選択肢です。確認したいのは、紹介人数だけでなく、どこまで相談できるか、連絡方法は何か、意見が合わないときにどう対応してもらえるかです。
比較するときは、入会時と毎月の費用、追加費用、休会・退会の条件、紹介対象となる地域も確認してください。「成婚」という言葉の定義はサービスごとに確認が必要です。相談したから入会しなければならない、と考える必要はありません。今の活動方法で十分なら、変更を急がなくて大丈夫です。
婚活と確率論のよくある疑問
何人と会えば結婚相手を決められる?
一律の人数は導けません。会う総数が決まっていないことに加え、一人について知っている内容も違います。人数より、互いの希望や生活上の重要な点をどこまで話せたかを確かめます。
37%ルールを年齢に当てはめてもよい?
そのまま当てはめる根拠にはなりません。古典的な秘書問題は、決まった数の候補がランダムな順序で現れる設定です。年齢の範囲を候補数の代わりに置くと、別の問題になります。
条件を減らせば、幸せな結婚に近づく?
条件に合う候補が増えることと、結婚生活への納得は同じではありません。何を守るための条件かを確認し、必要な希望を消すのではなく、確かめ方を増やすことを考えます。
好きになれるか分からない相手と、もう一度会うべき?
安全で、双方に会いたい気持ちがあるなら、まだ知らないことを確かめる機会にはなります。ただし、回数を重ねれば必ず好きになるとは言えません。気が進まない理由を無視してまで続ける必要はありません。
決めたいのは順位より、二人の暮らし
確率の数字は、迷っているときほど魅力的です。けれど、「いつ決めれば正解か」という問いの前に、「何をもってよい選択とするか」という問いがあります。
肩書きや条件の一覧から少し離れると、考えたいことは案外具体的です。忙しい週にどう助け合うか。お金の話を避けずにできるか。意見が違っても、互いを雑に扱わずにいられるか。
全部が分かってから結婚を決めることはできません。それでも、知らないことを数字で埋めず、必要な話を少しずつすることはできます。妥協という一語で片づけるには、これからの暮らしはずっと具体的で、一人ひとり違うものです。
参考文献・計算の出典
以下は数学モデル、初期の魅力、条件の相互一致、独身への恐れを扱う異なる研究です。ひとつの「成婚確率」を共同で検証したものではありません。本文の実用例とメモは、それらを踏まえた独自の整理です。
- Ferguson, T. S. (1989). Who Solved the Secretary Problem? Statistical Science, 4(3), 282–289.
第2節の設定と式2.1〜2.3を参照。DOI:10.1214/ss/1177012493。 - Eriksson, K., Sjöstrand, J., & Strimling, P. (2004). Optimal stopping in a two-sided secretary problem.
理論研究のプレプリント。相互選択の設定を参照。実際の成婚率の調査ではありません。 - Joel, S., Eastwick, P. W., & Finkel, E. J. (2017). Is Romantic Desire Predictable? Machine Learning Applied to Initial Romantic Attraction.
Psychological Science。公開抄録を参照。DOI:10.1177/0956797617714580。 - 鈴木亘・八代尚宏(2025)現実的な配偶者の決定要因~結婚候補者の存在確率に関する定量的評価~. 経済分析,211.
原著の調査方法・条件一致の定義・要旨を参照。調査は2024年3月、25〜49歳の独身者1万人。 - Spielmann, S. S., et al. (2013). Settling for less out of fear of being single. JPSP,105(6),1049–1073.
公開抄録を参照。DOI:10.1037/a0034628。
