この記事には広告が含まれます。
「もう二度としない」。その言葉を、二度聞いてしまった。怒りより先に、理由が知りたくなることがあります。反省しているように見えたのに、なぜ同じことが起きたのでしょうか。
検索すると、ドーパミン、バソプレシン、浮気遺伝子という説明が並びます。原因に名前がつくと、混乱に輪郭が生まれます。ただ、その名前が相手を理解する手がかりになる場合もあれば、責任を曖昧にする言い訳になる場合もあります。
浮気の反復に関係する心理や生物学的な個人差は研究されています。しかし、浮気を繰り返す人の脳に「欠陥がある」と診断できる研究ではありません。 脳の仕組みを知ることと、その人を再び信頼できるか判断することは、別の課題です。
この記事では、人を追跡した研究、遺伝子の関連研究、動物の愛着研究を読み分けます。そのうえで、説明の上手さではなく、何が実際に変わったのかを確かめる視点を考えます。

最初に押さえたい三つの結論
- 過去の浮気は、次の関係での浮気と関連します。ただし「一度した人は必ず繰り返す」という意味ではありません。
- ドーパミンや愛着に関わる物質は、人の行動を理解する一部です。特定の物質や遺伝子だけで、個人の誠実さは判定できません。
- 再び関係を築くか考えるときは、反省の言葉に加えて、合意・行動・継続性を見ます。理解したからといって、許す義務はありません。
この記事でいう「浮気」
ここでは、二人が合意した恋愛・性的な関係の境界を、一方が破ることを指します。性的な接触だけでなく、秘密の交際やオンラインでのやり取りが問題になる場合もあります。
何を境界とするかは、関係によって異なります。ただし、事後に一方だけで「それは浮気ではない」と定義し直しても、合意があったことにはなりません。また、当事者が自由に合意した非独占的な関係と、秘密の裏切りは区別する必要があります。
研究で測った行動も一様ではありません。「交際相手以外との性交渉」「浮気したと本人が答えた経験」「愛着の強さ」は、似ていても同じ指標ではないのです。
「繰り返す」を調べた追跡研究
浮気の仕組みを考えるなら、まず脳の画像より、人が時間の中でどう行動したかを見るほうが、問いに近づけます。
Knoppらは484人を二つの交際関係にわたって追跡し、最初の関係で相手以外との性的関係を報告した人は、次の関係でも報告しやすいことを示しました。ただし自己申告に基づき、合意のある非独占的関係を十分に区別できない限界があります。これは脳の異常を調べた研究ではありません。[1]
大事なのは、過去は判断材料になりますが、未来の判決文にはならないという点です。反復の傾向を無視する必要はありません。一方で、集団で見つかった関連を「あなたは絶対にまたする」という断定に変えることもできません。
研究の問いは「以前にそうだった集団と、そうでなかった集団に違いがあるか」です。目の前の問いは「この人は、以前と比べてどこを変えたか」です。似ているようで、必要な情報が違います。
謝罪の言葉だけでは、その差を確かめられません。反対に、過去を隠さず説明し、合意を守る行動が続いているなら、それは現在の判断に加えられる情報です。どちらの場合も、再発しない保証にはなりません。

ドーパミンは「浮気をさせる物質」なのか
ドーパミンを「快楽物質」とだけ覚えると、何でも説明できた気になります。楽しいからドーパミン、やめられないからドーパミン。便利ですが、便利すぎる説明には注意が必要です。
Schultz、Dayan、Montagueの研究論文では、霊長類のドーパミン神経の活動を、報酬とその予測のずれに関係する信号として整理しています。期待と結果の違いが、学習にどう関わるかという議論です。人間の浮気の反復を直接検証した論文ではありません。[2]
「欲しくなる」と「選ぶ」の間
好意を向けられてうれしい。新しい相手との会話に気持ちが高ぶる。その経験を、次も求めたくなる。報酬や学習という視点は、こうした場面を考える手がかりになります。
しかし、そこから秘密の連絡を続ける、会う約束をする、相手に嘘をつくという行動までを、ひと息に説明してはいけません。魅力を感じることと、合意を破ることの間には、いくつもの選択が挟まっています。
たとえば「通知を見ると期待してしまう」という説明なら、次に検討できるのは通知の扱いや連絡の境界です。「脳がそうさせる」だけでは、どこを変えるのかが見えません。
これは浮気の治療法を示した実験結果ではなく、日常の行動を具体的に分けるための考え方です。原因の説明が役立つかどうかは、次の選択を変える話につながるかで確かめられます。
「刺激が足りなかった」を免罪符にしない
関係に退屈や不満があったとしても、それは秘密の行動を正当化する同意にはなりません。不満を話す、関係の条件を相談する、関係を終える。合意を破る以外の選択肢もあります。
裏切られた側が、いつも新鮮で魅力的であれば防げた、という話にもなりません。相手の刺激を管理する役目まで、一人で引き受ける必要はありません。
「浮気遺伝子」という見出しで消える情報
遺伝子の研究は、とりわけ強い言葉に変換されやすい分野です。「関連があった」が「遺伝子が原因」に、「個人差」が「生まれつき治らない」に変わると、元の研究から離れてしまいます。

DRD4研究で有意だったもの、そうでなかったもの
Garciaらの2010年の研究は、大学で募集した若者181人を対象に、DRD4遺伝子の型と性的行動を調べました。7R+群と7R-群で浮気経験を報告した割合は50%と22%でしたが、この差は統計的に有意ではありませんでした(p=.14)。一方、浮気を報告した人に限った相手の人数には関連が報告されています。著者ら自身も、別の説明の可能性があり、決定的な結果ではないとしています。[3]
数字だけを大きく切り出すと、遺伝子で浮気を見抜けそうに見えます。けれども、「浮気経験があるか」と「経験者の相手が何人か」は異なる問いです。後者の結果を使って、前者まで証明されたことにはできません。
ここでの「有意ではない」は、関連が絶対に存在しないという意味でもありません。この研究から断言できる範囲を超えない、という意味です。恋人に遺伝子の話を当てはめ、将来の行動を判定する材料にはできません。
バソプレシンの研究も、誠実さの検査ではない
Zietschらの研究では、長期的な関係にある双生児・きょうだい7,378人のデータなどを分析し、関係外の性的行動に遺伝的な個人差が関わる可能性を検討しています。遺伝子の分析では、AVPR1Aとの関連は女性で見られ、男性では見られませんでした。OXTRとの関連も確認されていません。これを男女共通の「浮気遺伝子」と呼ぶことはできません。[4]
集団の違いを説明する「遺伝率」と、一人の行動が遺伝子で決まる割合も別です。遺伝率が何割という数字を、その人が変われない確率に読み替えることはできません。
遺伝子の関連、ホルモンの量、脳の働き、実際の行動。これらは一続きのように語られますが、それぞれ別の測定が必要です。一つを調べた論文が、残りのすべてを確かめたわけではありません。
動物の愛着研究から、人間の裏切りまでの距離
プレーリーハタネズミは、つがいの形成を研究する動物として知られています。ただし、つがい相手への選好を測る実験と、人間が約束を破り、秘密を持つことは同じではありません。
Berendzenらは2023年、オキシトシン受容体の機能を失わせる遺伝子変異を導入したプレーリーハタネズミでも、つがい形成や養育行動が見られたと報告しました。単一の受容体を「愛情のスイッチ」と見なす説明を考え直させる結果ですが、人間の浮気がその受容体で決まるかを調べた研究ではありません。[5]
「愛情ホルモンが足りないから浮気する」「増やせば一途になる」という話は、わかりやすい一方で、大きな飛躍を含みます。人間の関係には、何を約束したか、何を隠したか、相手の意思を尊重したかという層があるからです。
生物学の説明を否定する必要はありません。ただ、人間関係の問題を、物質の不足だけに縮めないことです。研究が複雑であるほど、単純な断定を避ける理由が増えます。
浮気の理由は一つとは限らない
Seltermanらの研究では、浮気の動機として、関係への不満だけでなく、承認を求める気持ち、性的な多様性、関与の弱さ、状況的な要因なども検討されています。本人が振り返って答えた動機であり、客観的な原因をすべて特定したものではありません。[6]
「寂しかった」と言われても、そこで会話を閉じる必要はありません。寂しさを誰にも話さなかったのか。話したうえで合意を破ったのか。断る場面はなかったのか。何を隠すことにしたのか。感情の名前だけでは見えない、行動の経緯があります。
同時に、説明を細部まで聞けば必ず安心できるとも限りません。知りたい情報と、今は聞きたくない情報を分けて構いません。すべてを聞き切ることは、関係を判断するための義務ではありません。
理由と責任を分ける
たとえば仕事で余裕がなかったことは、当時の背景になります。しかし、それだけで秘密の交際を選んだ責任がなくなるわけではありません。
「そういう状態だった」と「だから仕方なかった」は、別の文章です。前者は理解につながり得ます。後者だけが繰り返されるなら、行動を変える話が抜け落ちていないか確認したいところです。
見極めたいのは、説明より「変わった条件」
ここからは研究を踏まえた実用上の整理です。診断尺度でも、再発率を計算するチェックリストでもありません。相手を採点するためではなく、曖昧な話を具体的にするために使ってください。

① 合意が具体的になったか
「嫌なことはしない」だけでは、同じ言葉で違う行動を想像しているかもしれません。交際を続けるなら、何を秘密にしないか、どのような接触を境界とするか、合意を見直したいときはどう話すかを、具体的に確かめます。
合意は、一方が怖くて従う規則とは違います。断る自由や、関係を続けない選択も含めて話せることが前提です。
② 本人が自分の行動を変えているか
「あなたが確認してくれれば大丈夫」という形では、再発を防ぐ役割が相手に移ってしまいます。本人が、問題になった連絡や場面をどう扱うのかを説明し、実行することが必要です。
常時の位置情報共有や端末の検査を、信頼回復の必須条件にすることも避けたいところです。確認する側が監視をやめられなくなる関係は、安心と同じではありません。透明性について相談する場合も、内容・期間・見直し方を互いに合意します。
③ 不都合な話にも向き合えるか
楽しく過ごせる日に優しいことと、傷つけた事実に向き合えることは別です。質問をした途端に怒る、責められたと話をすり替える、早く忘れるよう迫る。そうした対応があるなら、謝罪の言葉とは別に判断材料になります。
これは人格を診断する基準ではありません。今の関係で、必要な話し合いが成立するかを見る視点です。
④ 時間の中で続いているか
発覚直後に約束したことが、注目されなくなってからも続くかを見ます。一度の大きな贈り物より、日常の小さな約束の扱いのほうが確かめやすいこともあります。
何日続けば安全、何回謝れば十分という共通の線引きはありません。待つことがつらいなら、判断を先延ばしにし続ける必要もありません。
TRUST & CHANGE
「反省した」の先にある四つの問い
気になる項目を開いて、言葉と行動を分けて考えてみてください。
01|合意:何を守るか、二人で確認できる?
曖昧な言葉:「もう嫌なことはしない」
確かめたいこと:何が境界なのか。意見が違うときにどう話すのか。どちらも自由に同意・拒否できるか。
02|行動:本人が変えたことは何?
曖昧な言葉:「信じてくれれば大丈夫」
確かめたいこと:問題になった接触や秘密をどう扱うのか。確認する役割を、相手だけに背負わせていないか。
03|対話:不都合な話も続けられる?
曖昧な言葉:「謝ったのだから、もう終わり」
確かめたいこと:質問や不安を話したときの対応。忘れることや許すことを急がせていないか。
04|継続:注目されなくても続いている?
曖昧な言葉:「今日はこんなに尽くした」
確かめたいこと:日常の合意が続いているか。守れなかったときに説明や見直しがあるか。
この記事の実用上の整理です。診断・採点・再発予測のための尺度ではありません。すべて満たしても、関係を続ける義務や安全の保証は生まれません。
会話を始めるための短い例
「理由を知りたい気持ちはあります。ただ、今は説明だけで安心できません。前回と違う行動を、あなた自身が何にするのか聞きたいです」
「私がずっと確認する関係は続けられません。連絡について何を合意できるのか、守れなかったときにどうするのかを話したいです」
言葉を整えれば相手が必ず応じる、ということではありません。話し合いを拒まれること自体も、今後の判断に関わる情報です。
お願いと境界線を分けたいときに:恋人との距離感と境界線の考え方
「理解できた」と「一緒にいられる」は別
相手の事情を理解しても、関係を続けられないことはあります。変わろうとしていると感じても、もう待てないこともあります。それは研究の読み方が足りないからではありません。
原因を説明できることは、傷ついた側が引き受けるべき負担を決めません。 相手が変われるかどうかと、自分がこの関係で暮らしたいかどうかは、両方考えてよい問いです。
一緒にいるときの安心、睡眠や仕事への影響、自由に意見を言えるか。相手の将来だけを考えていると、自分の現在が見えなくなります。

一人で判断を背負わないために
すぐ結論を出さず、距離を置いて考える方法もあります。信頼できる人や、関係の問題を扱う相談先に、自分が知っている事実と迷いを分けて伝えることもできます。相談の目的は、必ず復縁することでも、必ず別れることでもありません。
脅しや暴力があり、断ることが怖い場合は、二人だけの話し合いを優先せず、安全を確保できる支援先につながってください。
自分の価値まで疑ってしまうときに:恋愛で自己肯定感が下がる理由
もう少し深く考えるための一冊
脳や遺伝子の説明とは別に、不倫が関係の中でどのような意味を持つのか考えたい人には、エスター・ペレルの『不倫と結婚』が選択肢になります。出版社の案内では、不倫の定義、発覚後の傷つき、動機、その後の関係を扱っています。[7]
研究論文の代わりや、再発を見抜く診断書としてではなく、問いを広げるための読書に向いています。今は関連する話を読むこと自体がつらいなら、急いで購入する必要はありません。内容紹介を確かめ、読めそうな時期に選んでください。
よくある質問
- Q浮気を繰り返す人は、脳に異常があるのでしょうか?
- A
浮気の反復だけから脳の異常を判断することはできません。報酬系や遺伝子の関連研究はありますが、個人の脳を診断したり、必ず再発すると予測したりする検査ではありません。
- Q一度浮気した人は、必ず繰り返すのでしょうか?
- A
必ずとはいえません。過去の行動と次の関係での行動の関連は報告されていますが、集団の傾向は個人の未来を確定しません。過去に加えて、現在の合意や行動がどう変わったかを見ます。
- Qドーパミンやホルモンを調べれば、浮気の原因がわかりますか?
- A
この記事で扱った研究は、個人の浮気の原因を検査で特定できることを示していません。遺伝子や物質の名前だけで、誠実さや再発の有無を判定することはできません。
- Q相手が反省しているなら、許したほうがよいのでしょうか?
- A
許す義務はありません。反省を認めること、信頼すること、関係を続けることは、それぞれ別の判断です。自分の安心や生活への影響も含めて考えて構いません。
脳の名前より、次の選択
脳の仕組みを学ぶことには意味があります。人間を「意志が強いか弱いか」だけで裁かず、複雑な行動として考えられるからです。
ただ、複雑さを理解することと、責任を消すことは違います。ドーパミンという言葉を知っても、約束を守る代わりにはなりません。
見たいのは、原因についてどれほど上手に話せるかだけではなく、その理解が次の選択にどう現れているかです。そして、その変化を待つかどうかは、あなたが決めてよいことです。
参考文献・一次資料
1. Knopp K. et al. (2017). Once a Cheater, Always a Cheater? Serial Infidelity Across Subsequent Relationships. Archives of Sexual Behavior. 原文を読む
2. Schultz W., Dayan P., Montague P. R. (1997). A Neural Substrate of Prediction and Reward. Science. 原文を読む
3. Garcia J. R. et al. (2010). Associations between Dopamine D4 Receptor Gene Variation with Both Infidelity and Sexual Promiscuity. PLOS ONE. 原文を読む
4. Zietsch B. P. et al. (2015; online 2014). Genetic analysis of human extrapair mating: heritability, between-sex correlation, and receptor genes for vasopressin and oxytocin. Evolution and Human Behavior. 原文を読む
5. Berendzen K. M. et al. (2023). Oxytocin receptor is not required for social attachment in prairie voles. Neuron. 原文を読む
6. Selterman D., Garcia J. R., Tsapelas I. (2019; online 2017). Motivations for Extradyadic Infidelity Revisited. The Journal of Sex Research. 原文を読む
7. 晶文社『不倫と結婚』書誌・内容紹介。 原文を読む
