恋愛初期の強い「会いたい」には、報酬や動機づけに関わる脳の働きが研究されています。ただし、好きすぎる感覚だけで、脳内物質の量や異常を判定することはできません。
返信を何度も確かめる。会える日が待ち遠しい。嬉しいのに、気持ちが落ち着かない。そんな変化を「脳内物質のせい」と一言で説明したくなることがあります。
この記事では、ドーパミン・セロトニン・ノルアドレナリン・オキシトシンについて、研究が実際に測ったものを確認します。後半では、気持ちの強さを採点せず、生活と関係を振り返るための記録例を紹介します。
- ドーパミン:恋愛相手の写真に対する脳活動などが研究されています。返信の回数から分泌量は分かりません。
- セロトニン:よく引用される研究の対象は血小板です。「恋をすると脳内で必ず減る」とは言えません。
- ノルアドレナリン・オキシトシン:恋愛との関係は研究されていますが、不眠の原因や相手の誠実さを判定する道具ではありません。

恋愛と脳内物質の研究は、何を測っている?

「脳内物質を調べた研究」と紹介されていても、測定方法は同じではありません。脳の活動、血液中の物質、質問紙への回答を混同すると、研究の結論より強い説明になってしまいます。
脳画像:活動した場所と、物質の量は別
fMRIでは、血液の酸素化に関連する信号から脳活動の変化を調べます。ドーパミンが豊富な領域の活動が見られても、その画像だけでドーパミン量を直接測ったことにはなりません。恋愛研究には、放射性の標識を使うPETで受容体への結合の変化を調べたものもあります。[1][2]
血液・尿:その測定結果を、そのまま脳内の量にしない
血小板のセロトニントランスポーターや血液中のオキシトシン、尿中のノルアドレナリンなどは、それぞれ別の測定対象です。「血液で差があった」から「この人の脳内では、この物質が不足している」と読み替えることはできません。[3][4][5]
集団の比較:読者一人ひとりの診断ではない
研究の参加者に見られた傾向は、すべての恋愛に同じように当てはまるとは限りません。人数、年齢、交際期間、参加条件、比較した相手を確認すると、結論を使える範囲が見えてきます。
四つの物質を読むための早見表
研究に登場する名前が似ていても、測っている対象は違います。下の表は本文の研究を読むための索引です。自分の気分を当てはめて「不足」「過剰」を判定する表ではありません。
| 物質 | この記事で扱う測定 | そこから直接は分からないこと |
|---|---|---|
| ドーパミン | fMRIの活動と、PETによる結合の変化を区別する。[1][2] | 今日の自分の分泌量や、相手との相性。 |
| セロトニン | 血小板のトランスポーター密度。[3] | 脳内セロトニン量や、読者個人の病名。 |
| ノルアドレナリン | 尿中の値と実験室での反応の関連。[4] | 返信待ちで眠れない原因が、この物質一つかどうか。 |
| オキシトシン | 交際初期の群と非交際群の血漿中の値。[5] | 交際が長続きするか、本人の脳内で何が起きているか。 |
たとえば、部屋の明かりがついたことと、電気料金を測ったことは同じではありません。この比喩と脳の仕組みは別ですが、「活動が見えた」と「物質の量を測った」を読み分ける入口になります。測定方法を一言添えるだけでも、科学の説明はぐっと正確になります。
ドーパミン|恋愛相手を求める動機づけとの関係
Aronらの2005年の研究では、強い恋愛感情を抱く17人が、恋愛相手と見知った人の写真を見たときのfMRIを比較しました。恋愛相手の写真では、腹側被蓋野や尾状核など、報酬・動機づけに関わる領域の活動が報告されています。[1]
Takahashiらの2015年のPET研究では、解析対象の10人で、恋愛相手の写真を見る条件と友人の写真を見る条件を比較しました。前頭前野の一部で見られた結合の変化は、ドーパミン放出と整合する結果として解釈されています。[2]
ここから言えるのは、恋愛と報酬・動機づけの働きに関係があるということです。「返信を待つ私はドーパミンが出すぎている」「たまに優しくする相手なら必ず夢中になる」とまでは判断できません。
会いたい気持ちが強いことと、実際に会った時間を楽しめること、関係に納得できることは、別々に振り返れます。この区別は「ドーパミンと恋愛の関係|快楽と幸福はどう違う?」で詳しく扱っています。
セロトニン|「恋愛初期に必ず低下する」は言い過ぎ
Marazzitiらの1999年の研究は、過去6か月以内に恋に落ちた20人、薬物治療を受けていない強迫性障害の患者20人、対照群20人を比較しています。恋愛中の群と強迫性障害の群では、血小板のセロトニントランスポーター密度が対照群より低いと報告されました。[3]
- 測ったもの:血小板にあるセロトニントランスポーターの密度。
- 測っていないもの:参加者の脳内セロトニン量そのもの。
- 結論にできないこと:恋愛中の人は強迫性障害である、考えすぎる人はセロトニン不足である、という判定。
トランスポーターは、セロトニンを運ぶ仕組みに関わるものです。「トランスポーター密度が低い」と「セロトニン量が少ない」は同じ測定結果ではありません。好きな人が頭から離れないという体験を、この研究だけで説明し切ることもできません。
眠れない、仕事に集中できないほどつらいときは、物質名を当てはめるより、いつから何に困っているかを整理して相談するほうが、困りごとを伝えやすくなります。
ノルアドレナリン|眠れない原因を一つに決めない
ノルアドレナリンは恋愛の説明にも登場しますが、「恋愛初期には必ず増え、それが不眠を起こす」という一続きの説明には注意が必要です。
例えばDundonとRelliniの2012年の研究は、女性46人を対象に、恋愛に関する状態、尿中のノルアドレナリン・ドーパミンと、実験室での性的反応との関連を調べたものです。脳内の分泌量や、返信待ちによる不眠の原因を確かめた研究ではありません。[4]
恋をしている時期に眠れなくなっても、原因を一つの脳内物質に限定しないでください。睡眠の状態と、夜に何をしていたか、困りごとがどのくらい続いているかを記録してみましょう。
オキシトシン|「長続きする愛」の保証ではない
Schneidermanらの2012年の研究では、交際初期の60組・120人と、交際していない43人の血液中のオキシトシンを比較し、交際初期の群で高い値が報告されています。対象は主に若い成人で、交際初期のカップルは関係が始まって約3か月の時期でした。[5]
これは血漿中の測定であり、脳内の量を直接測ったものではありません。また、群の差があることだけでは、オキシトシンが恋愛を生んだという因果関係や、その人の将来の関係を保証できません。
「初期はドーパミン、時間がたつとオキシトシンに切り替わる」と、二つの物質をスイッチのように扱う説明も単純化しすぎです。親密さは、本人の気持ちや、実際の関わり方と併せて考えましょう。
恋愛初期はいつまで?研究の期間を「恋の期限」にしない
ここで紹介した研究でも、参加条件は「恋に落ちて6か月以内」「恋愛感情が始まって1〜17か月」「交際して約3か月」と異なります。これは研究対象を選んだ条件で、全員の高揚感がその期間で終わるという意味ではありません。[1][3][5]
長期の恋愛を調べたAcevedoらの研究には、平均婚姻期間21.4年で、配偶者への強い恋愛感情を報告する17人が参加しています。選ばれた少人数の結果を全夫婦には広げられませんが、「強い恋愛感情は一定年数で必ず消える」とも言い切れないことが分かります。[6]
交際から何か月たったかだけで、結婚・同居・別れの時期を決めない。気持ちと併せて、生活条件、約束、互いの意思、まだ分かっていないことを確認してください。
高揚感が続く期間や「恋は何年で終わるのか」が気になる方は、恋愛感情の賞味期限とPEA説を論文から考える記事へ。こちらでは物質ごとの測定を、関連記事では時間と気持ちの変化を整理しています。
好きすぎてつらいとき、生活と関係を整理する5つの問い

次の問いから、自分の状態を振り返ってみましょう。該当数で「依存」「正常」「別れるべき」を判定するものではありません。今いちばん困っている場面を一つ選び、具体的な出来事を書いてください。
- 睡眠・食事・仕事・学業のうち、何にどんな影響が出ているか。
- 相手のことを考える時間を、必要なときに切り替えられるか。切り替えにくいのはどんな場面か。
- 不安のきっかけは何か。実際の出来事と、自分の推測を分けられるか。
- 相手に頼みたいこと、断りたいこと、今は決めたくないことは何か。
- 困りごとを伝えた後、話し合いと実際の行動にどんな変化があったか。

記録例:返信を待って眠れなかった夜
以下は書き方を示す架空の例です。自分が経験した出来事と、そのときの気持ちに置き換えてみてください。
【出来事】寝る前に送ったメッセージに、翌朝まで返信がなかった。
【推測】嫌われたのかもしれないと思った。理由はまだ分からない。
【影響】何度も画面を確認して、寝る時刻が遅くなった。
【希望】夜中は通知を確かめずに休みたい。予定の連絡をいつまでにするかは相談したい。
返信がないという出来事と、嫌われたという推測を別の欄に置きます。一方で、約束を何度も一方的に変えられるなど、実際に起きている問題を「自分の考えすぎ」で消す必要もありません。

相談例:連絡の条件を、二人の生活に合わせる
「夜に返信を待って寝るのが遅くなっているから、寝る時間は通知を切ろうと思う。次に会う予定は、前もって決める方法を相談できる?」
確認する回数や待つ日数に、全員に合う正解はありません。仕事や睡眠、緊急連絡の必要性に合わせて、実際に続けられる方法を考えます。相手の行動を試すために、わざと返信を遅らせる必要もありません。
連絡そのものの負担を整理したい場合は、彼氏から連絡がこないときの不安の整理も参考にしてください。
一人で整理し切れないときは、相談してよい
眠れない、食事が取れない、仕事や学校に行けないなどの支障がある場合は、「恋愛ならよくあること」と我慢し続けず、医療機関や相談窓口に状況を伝えてください。受診するか迷う段階でも、厚生労働省の「こころの相談の窓口」から相談先を探せます。[7]
脅しや強要があって、希望や断る意思を伝えること自体が怖い場合は、上の会話例を実行しようと無理をしないでください。相手を説得することより、自分が安全に助けを求められる方法を優先しましょう。

脳内物質の説明と、今日できる相談をつなぎ直す
好きな相手を何度も考えてしまうと、「ドーパミンのせいなら仕方ない」と感じるかもしれません。研究の知識は興味深い説明になりますが、個人のその日の状態を、物質名だけで確定するものではありません。日常では、どの場面で困っているかを具体的にする方が、次の相談を考えやすくなります。
返信が気になって仕事が中断する場合
例えば、作業の途中で何度も通知を見ているなら、「何の用件を待っているか」「今すぐ確認する必要があるか」「確認を終えて戻りたい作業は何か」を分けます。これは脳内物質を操作する方法や治療ではなく、今の用件を整理するための提案です。
相手と相談できるなら、急ぎの予定確認と、返事を急がない近況を区別する方法を話せます。返信の時刻を約束できない場合も、自分が休む時間や仕事に戻る時間を考えることはできます。
付き合い始めの高揚が落ち着いた場合
以前ほどドキドキしないことから、特定の物質が減った、もう好きではないと個人の状態を判定することはできません。一緒に過ごす時間がどう感じられるか、話せていない希望があるか、生活の負担が変わったかを見ます。
- 今も楽しみなことは何か。
- 落ち着いて心地よいことと、退屈・不満に感じることは何か。
- 会う頻度や過ごし方について相談したいことはあるか。
- 睡眠や仕事など、恋愛以外の生活で困っていることはないか。
研究の説明を知っても、気持ちがすぐ整理できるとは限りません。生活への支障や体調の問題が続く場合は、恋愛の答えが出るのを待たず、適切な相談先を利用できます。物質を増減させることをうたう食品・サプリメントなどで、恋愛や体調の問題を解決できると考えないようにします。
架空の例|通知は来た。でも、宿題は終わっていない
夜、相手から「おやすみ」と届いた。うれしくなってメッセージを何度も読み返すうちに、明日の準備が手つかずになった――そんな架空の場面を考えます。このとき「ドーパミンが増えたからだ」と自分を解説しても、準備する物がカバンへ自動で入るわけではありません。
気持ちを否定せず、いま片づけたいことを一つ選びます。「返事は送った。明日の資料を入れてから寝よう」と区切る方法もあれば、相手に「今日はここで寝るね」と伝える方法もあります。これは脳内物質を減らす処方ではなく、行動を選ぶための例です。
逆に、返信を待たなくても眠れない、休んでも日中の活動に支障があるなら、通知の扱いだけでは説明し切れません。「恋だから」で片づけず、続いている困りごとを相談先へ伝えます。楽しい気持ちと、助けが必要な状態は、同時に存在してもおかしくありません。
読み終えたあとに残す、一行ずつのメモ
| 欄 | 書き方の例 |
|---|---|
| 分かったこと | 研究の測定値と、自分の気持ちは同じ情報ではない。 |
| まだ分からないこと | 返信が遅れた理由。相手がどう思っているか。 |
| 今日選ぶこと | 明日の準備を終えて、休む時間を取る。 |
| 相談したいこと | 次の予定をいつ決めるか。生活への支障が続くなら、その状況。 |
上手な文章にする必要はありません。「分からない」を空欄のまま残すこともできます。恋愛の結論を今夜中に出すことと、今夜の暮らしを整えることは、別の作業です。
よくある疑問
- Q好きすぎておかしくなるのは、脳の異常ですか?
- A
そう感じることだけで、脳の異常とは判断できません。つらさや生活への支障があることは、それ自体が相談する理由になります。自分で物質の過不足や病名を決める必要はありません。
- Q急に冷めたら、脳内物質が減ったのでしょうか?
- A
気持ちの変化だけでは、物質の量は分かりません。相手のどの言動が気になったか、一緒にいたい気持ちはどう変わったか、疲れや負担はないかを、別々に振り返ってみてください。
- Qときめきが強いほど、相性がいいのでしょうか?
- A
強いときめきだけで、相性や関係の続きやすさまでは決まりません。約束の守り方、希望を相談できるか、互いの生活を尊重できるかも確認しましょう。

まとめ|物質名より、研究の範囲と自分の暮らしを見る
- 恋愛と脳の報酬・動機づけの関係は研究されている。
- 脳画像・血液・尿の結果を混同せず、個人の分泌量や病気を推測しない。
- 恋愛初期の期間は研究によって異なり、全員に共通する期限にはできない。
- つらいときは、実際の出来事・推測・生活への影響・希望を分けて書く。
恋の高揚感を楽しむことと、生活を大切にすることは両立して構いません。科学の言葉で気持ちを否定したり、苦しさを正当化したりせず、今の自分がどう過ごしたいかを考える材料にしてください。
参考文献・出典
確認日:2026年9月16日。研究で報告された結果と、本文の記録・会話の提案は区別しています。
- [1] Aron et al.(2005)
Reward, Motivation, and Emotion Systems Associated With Early-Stage Intense Romantic Love - [2] Takahashi et al.(2015)
Imaging the passionate stage of romantic love by dopamine dynamics - [3] Marazziti et al.(1999)
Alteration of the platelet serotonin transporter in romantic love - [4] Dundon & Rellini(2012)
Emotional states of love moderate the association between catecholamines and female sexual responses in the laboratory - [5] Schneiderman et al.(2012)
Oxytocin during the initial stages of romantic attachment: Relations to couples’ interactive reciprocity - [6] Acevedo et al.(2012)
Neural correlates of long-term intense romantic love - [7] 厚生労働省
こころの相談の窓口
