「もっと連絡してほしい」と言いたかっただけなのに、口から出たのは「私のこと、どうでもいいんでしょ」。相手は連絡の話ではなく、愛情を疑われたことに反論する。気づくと二人とも、最初の相談から遠く離れた場所にいます。
恋愛でアサーションを使うとは、自分の希望を消さず、相手の意思も消さずに伝えることです。出来事、自分への影響、頼みたい行動を分け、相手の返事を聞く。まずはこの順番で、相談を一つの場面まで小さくしてみてください。
ただし、「私は」を主語にすれば何を言っても優しくなるわけではありません。「私は、あなたが全部間違っていると思う」も、文法上は立派な一人称です。恋人が欲しいのは、きれいに包装された判決ではないはずです。
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アサーションは、恋人を説得しきるための技術ではない
厚生労働省「こころの耳」は、アサーションを、相手の気持ちや考えを尊重しながら、自分の気持ちや考えも場面に適した表現で伝えることと説明しています。[1]我慢して何も言わないこととも、言いたいことを一方的にぶつけることとも違います。
たとえば、休日に一人で休みたいとき。「どこでもいいよ」と無理して出かけ、あとで不機嫌になる。「しつこい、放っておいて」と突き放す。その間に、「今日は一人で休みたい。会うなら日曜の午後はどう?」という返し方があります。断る部分と、相談できる部分が見える言葉です。
もちろん、毎回代案を出さなければ断ってはいけない、という意味ではありません。体調が悪い、触れられたくない、お金を貸したくない。その意思を示すために、相手を納得させる長い説明を必ず用意する必要はありません。
「上手に言えた」と「希望が通った」を分ける
丁寧に頼んでも、相手には断る事情があります。「毎晩電話したい」に対して「平日は難しい」と返ってきたら、伝え方の失敗とは限りません。二人の生活条件が、ようやく会話に出てきたとも考えられます。
反対に、泣かれたり怒られたりするのが怖くて相手が承諾したなら、希望が通ったことだけを成功と呼ぶのは危うい。言った人の満足だけで、良い対話を採点しないことです。
三田村仰・松見淳子が提案した「機能的アサーション」は、話し手の課題達成と、聞き手から見た適切さの両方に注目します。特定の言葉遣いを守ったかより、置かれた状況でどう働くかを見る考え方です。これは理論的な枠組みで、恋人への万能な言い回しが実験で証明された、という話ではありません。[2]
日常に引き寄せるなら、「言いたいことは言えた」に加えて、「相手も事情を話せたか」を確かめたい。自分の席だけでなく、相手の席も会話の中に残っているか。そこがアサーションを恋愛で使うときの要所だと考えます。

Iメッセージは効くのか――研究が調べたのは「会話の入り口」
Iメッセージとは、「あなたはひどい」と相手を評価する代わりに、「私は寂しかった」「私は予定が立てられず困った」と、自分の受け止めや影響を表す伝え方です。相手の心の中を断定せず、自分が説明できる範囲に戻すために役立ちます。
Rogersらの2018年の研究では、大学生253人が、恋人・友人・同僚の葛藤を描いた六つの仮想場面を読み、会話を始める発言を評価しました。I/Youの言葉遣いと、自分・相手の視点をどこまで示すかを変え、受け手が防御的に反応しそうかを尋ねています。[3]
結果は、I言語を使い、自分と相手の両方の視点を示した発言が、最も防御的反応を招きにくいと評価されました。ただし、実際のカップルに会話してもらった試験ではありません。平均年齢28歳、女性77%の学生による発言評価で、日本語での口論や長期的な関係改善を直接確かめたものでもありません。
ここから「私は、と付ければ喧嘩が減る」と飛躍するのは早い。それより、「自分がどう感じたか」と同時に「相手がどういう状況にいるか」を会話へ出す、という手掛かりとして使えます。
分かったふりをせず、確かめる
「仕事で疲れているのは分かるけど」と言った直後に要求を畳みかけると、相手には、理解の言葉が前置きにしか聞こえないことがあります。実際には事情を知らないなら、「最近、帰宅後に電話するのは負担になっている?」と聞くほうが誠実です。
返事が「話すのは好き。でも帰宅時刻が読めない」なら、毎日決まった時刻に電話する案から、話せる日に一言知らせる案へ変えられます。相手の視点を入れるとは、想像した事情を読み上げることではなく、返ってきた情報で自分の案も直せることです。
「気持ち」「解釈」「依頼」を混ぜない
「大切にされていない」は切実な訴えですが、そのままだと相手は「大切にしている」と反論するしかなくなります。何が起き、何に困ったのかを一段具体的にすると、相談する対象が見えてきます。
たとえば、「日曜の予定を金曜までに決めたいと送ったけれど、土曜の夜まで返事がなかった。私は他の予定を入れるか決められず困った。次から金曜の夜までに、行けるか未定かだけでも教えてほしい」。愛情の量を判定する話から、予定を決める行動の話に戻っています。
| 種類 | 例 | 確かめること |
|---|---|---|
| 出来事 | 土曜の夜まで返事がなかった | 双方で確認できる範囲か |
| 解釈 | 私を大切にしていないのだと思った | 事実と決めつけていないか |
| 気持ち・影響 | 寂しかった。別の予定を決められず困った | 自分に起きたことを説明しているか |
| 依頼 | 金曜の夜までに、未定なら未定と教えてほしい | 相手が実行・相談できる内容か |
感情を正確に言い当てるテストではありません。「寂しい」か「不安」か迷ったら、「うまく説明できないけれど、落ち着かない」でもいい。言葉が見つからないことまで、自分の落ち度にしないでください。
一方、「私は、あなたが無責任だと感じる」は、感情の形を借りた人物評価です。「私は」を残したままでも、後ろを「支払いの見通しが立たず不安だ」に変えると、相談の余地が生まれます。

恋愛で使うDESC法――四文字を暗唱するより、相談を組み立てる
DESCは、出来事を述べる、気持ちや懸念を表す、別の行動を提案する、その結果や影響を伝える、という順番で会話を整理する方法です。米国の医療研究・医療品質庁AHRQのTeamSTEPPS教材では、Describe・Express・Suggest・Consequencesとして示されています。医療チーム向けの教材であり、恋愛での効果を直接示す資料ではありません。[4]
身近な相談にも、この順番を借りることはできます。たとえば、デート中のスマホについてなら、次のように話せます。
D:出来事を、人格の評価にしない
「昨日、食事中に話しかけたとき、画面を見ていて返事がなかった」。これが出来事です。「いつもスマホばかり」「常識がない」は、範囲が広くなったり、相手を評価したりする言葉です。まず一つの場面を共有します。
記憶が食い違うなら、「私はそう覚えている。あなたはどうだった?」と確認できます。出来事を具体的に話すことは、相手に反論を禁じるための証拠固めではありません。
E:自分に起きたことを伝える
「話を聞いてもらえていない感じがして、寂しかった」。相手に悪意があったかを確定させず、自分の受け止めを伝えます。相手が「仕事の緊急連絡だった」と説明しても、寂しかったことをなかったことにする必要はありません。事情と影響は、両方存在します。
S:変えてほしい行動を一つ提案する
「次の食事では、急ぎの用がなければスマホを置いて話したい。急ぎなら、先に一言教えてもらえる?」。一生スマホを触らない約束より、場面と例外が分かる依頼です。
何を提案しても「何でもいい」と譲る必要はありません。最低限ほしいことを明確にしつつ、方法の相談は残す。たとえば、通知を切れない仕事なら、最初にその事情を共有してもらう方法もあります。
C:従わない罰ではなく、変わることを話す
「そうしてもらえると、話しかけていい時間か分かるし、一緒に食事をしている感じがする」。提案が二人の時間にどう役立つかを説明します。AHRQの教材でも、Cは共通の目標への影響として扱われています。[4]
「やらないなら、私も無視する」は罰の予告です。一方、「怒鳴られると話を続けられないので、そのときは席を離れる」は、自分が取る安全のための対応です。どちらも条件のある言葉ですが、相手を従わせる報復と、自分の限界を伝えることは分けて考える必要があります。
四つを一息に読み上げる必要はありません。「ちょっと相談していい?」から始め、相手が話したら聞く。台本は会話を助けるメモであって、恋人の返事を入れない演説原稿ではないのです。
すでに口論が激しくなっている場合は、カップルの喧嘩を解決する手順も参考にしてください。話し始める言葉を探す前に、休憩・謝罪・次回の行動を分けて整理できます。
言い換えで終わらせない、三つの会話例
連絡を増やしたい――断られたら目的に戻る
「最近、寝る前に少し話したいと思っている。今週、電話できそうな日はある?」と頼んだとします。相手の返事は、「毎晩は疲れる」。ここで「私が寂しいと言っているのに」と返せば、相手は事情を言いにくくなります。
「毎晩は難しいんだね。私が欲しいのは、落ち着いて近況を話す時間なんだ。週末に話すならどう?」と、目的へ戻すことができます。回数を減らせば必ず解決するわけではありませんが、電話という方法と、つながりを感じたいという希望を分けると、別案を探しやすくなります。
相手の「できない」を聞くことと、自分がずっと寂しいままでいることは別です。どの方法でも満たされないなら、その不一致も二人で扱うべき情報です。
急な誘いを断りたい――謝罪で本音を消さない
「今日会える?」に対して、「ごめん、私がわがままで、こんなことで疲れてしまって」と自分を下げなくても断れます。「今日は休む日にしたいから会えない。また予定を相談しよう」で、必要なことは伝わります。
相手が残念に思うことまで、すべて防ぐことはできません。「会いたかったんだね」と受け止めながら、「でも今日は休む」という判断を保っていい。相手の感情を尊重することは、その感情をなくすために予定を明け渡すことではありません。
費用が負担になっている――遠回しな不機嫌を、条件の相談へ
高い店へ行くたびに財布が気になるのに、「別に大丈夫」と答えてしまう。そんなときは、「最近、外食代が自分の予算を超えている。今月は一回の食事をこの範囲に収めたい」と条件を話せます。
「ケチだと思われたくない」という不安と、実際に払える額は別です。「どちらが愛情深いか」をお金で比べる前に、店の価格帯、頻度、支払い方のどこを変えられるかを相談します。自分の上限を伝えることは、相手の楽しみを否定することではありません。
「嫌だ」と言える余地は、本当にあるか
「無理なら断っていいよ」と添えても、断られるたびに何日も不機嫌になれば、次から相手は断りにくくなります。断る余地は、最後の一文だけで作れるものではありません。返事の後にどう振る舞うかにも表れます。
ここで見たいのは、希望が一致したかだけでなく、違う希望が出たときの二人の扱い方です。聞き返せたか。条件を変えられたか。今回は折り合えないと認められたか。「いいよ」の数より、言えなかった「嫌だ」が積もっていないかに目を向けたい。
収入、年齢、住む場所などの条件に大きな差があれば、形式上は自由な返事でも、実際には断る負担が大きいことがあります。「同意したよね」で終わらず、相手が生活や関係を失う心配なく希望を言える状況かを考える。この視点がないと、丁寧な話し方だけが、一方的な要求を通す道具になりかねません。

自分だけが、説明を改善し続けていないか
言葉を選び、タイミングを待ち、何度も言い直しているのに、いつも話をそらされる。困りごとを伝えるたびに人格を否定される。そういうときまで、「もっと上手に伝えれば」と自分だけの課題にする必要はありません。
怒鳴る、脅す、物を壊す、出口をふさぐなどの行動がある場合は、二人きりで話し方を練習するより安全を優先してください。相談先は内閣府のDV相談案内で確認できます。差し迫った危険があるときは110番です。
不満を伝えること自体が怖いときは、彼氏に不満を言うのが怖いときの考え方へ。嫌われる不安と、実際に威圧される危険を分けて考えます。
話す前に、四つだけ書いてみる
最初から美しい文章にしなくて構いません。「ムカつく」から始まるメモでも、誰かに見せずに整理するなら立派な出発点です。次に、何が起きたのか、何に困ったのかへ分けていきます。
書いたものを全部相手に渡す必要はありません。一番相談したいことを一つ選び、今話せるかを確認して始めましょう。入力内容は保存されません。残したい場合は、手元のメモへコピーしてください。
伝えた後は、文章の出来栄えよりも、返事から何が分かったかを振り返ります。「頼み方が曖昧だった」「時間帯が合わなかった」「方法ではなく希望そのものが違った」。次の一手は、それぞれ違います。
言葉を整えても希望が両立しないなら、恋愛で価値観が違うときのすり合わせ方も読んでみてください。調整できる方法と、譲れない希望を整理しています。
自己表現を体系的に学びたい人へ
例文をそのまま使うより、自分が黙り込みやすい場面や、強く言いすぎる場面から見直したい人には、平木典子『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』(講談社現代新書)があります。恋人を動かす台詞集ではなく、自分と相手を尊重する自己表現の考え方を学ぶための一冊です。
本を読んだから相手も変わる、とは限りません。まずは自分が伝えたい希望を見つけるために読み、難しい場面では一人で抱え込まないでください。
恋愛のアサーションについて、よくある質問
- Qアサーションとわがままの違いは何ですか?
- A
自分の希望を持つこと自体は、わがままではありません。相手の事情や断る意思も会話に残し、方法を相談できるかが大切です。丁寧な言葉でも、相手が断ると罰するような要求は見直す必要があります。
- QIメッセージは「私は」を付けるだけでよいですか?
- A
いいえ。「私はあなたが悪いと思う」では相手への評価が残ります。何が起き、自分がどう感じ、何に困ったのかを伝え、相手の事情も確かめましょう。
- QDESC法はLINEでも使えますか?
- A
文章を整理するために使えます。ただし、四項目を長文で一度に送りつける必要はありません。話したいことを一つに絞り、必要なら相談する時間を決め、相手の返事を待ちましょう。
- Q上手に伝えても断られたら、どうすればよいですか?
- A
断られたことだけで失敗と判断せず、何が難しいかを確かめます。希望と方法を分けて別案を探せますが、自分だけが譲り続ける必要もありません。希望自体が両立しない場合は、その違いを扱う話し合いが必要です。
伝え方を磨く目的は、二人の本音が残ること
言い方を工夫するのは、自分の希望を薄めるためでも、相手から必ず「はい」を引き出すためでもありません。連絡がほしい、今日は休みたい、その金額は払えない。そうした生活の手触りを、関係の中で話せるようにするためです。
次の相談では、うまく話せたかだけでなく、相手も言い直せたかを見てみてください。「それならできそう」だけでなく、「そこは難しい」も会話に残ったなら、二人の条件は前より見えているはずです。
一度で整った返事にたどり着かなくてもいい。言い直せること、聞き直せること、時には断っても関係の中に居場所があること。その積み重ねのほうが、完璧な一文より頼りになります。
参考文献・資料
[1]厚生労働省「こころの耳」アサーション(用語解説)。
[2]三田村仰・松見淳子(2010)相互作用としての機能的アサーション.パーソナリティ研究18(3),220–232.DOI:10.2132/personality.18.220.三田村仰(2020)機能的アサーションとは何か?.心身医学60(8),669–673.DOI:10.15064/jjpm.60.8_669.
[3]Rogers,S.L.,Howieson,J.,& Neame,C.(2018).I understand you feel that way, but I feel this way: the benefits of I-language and communicating perspective during conflict. PeerJ,6,e4831.DOI:10.7717/peerj.4831.
[4]Agency for Healthcare Research and Quality(2023).TeamSTEPPS: Tool: DESC(医療チーム向け教材)。
