恋人の虚言癖はなぜ起きる?嘘の心理と、信頼を取り戻すための条件

窓辺のテーブルに置かれた二つのカップと空いた椅子 Love & Relationships

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昨日聞いた話と、今日の説明が違う。小さな食い違いを尋ねると、さらに大きな話が出てくる。恋人の嘘が続くと、出来事そのものより「次の言葉を、どこまで信じればいいのか」が苦しくなります。

好きな人を疑い続けたいわけではない。それでも、信じた結果また傷つくのは怖い。この間で揺れると、相手の性格を説明する一語として「虚言癖」を探したくなります。

しかし、嘘が見つかったことと、特定の病気や人格が確定したことは別です。 自己防衛、見栄、関係を失う不安など、嘘を考える手掛かりはいくつもあります。原因を一つに決めるより、何が繰り返され、こちらの判断にどんな影響を与えているかを見る必要があります。

この記事では、病的な嘘をめぐる研究、恋人同士の調査、正直さと信頼の研究を読み解きます。相手を見破る技術よりも、確かめられることを増やし、自分の選択を守るための考え方を整理します。

窓辺のテーブルに置かれた二つのカップと空いた椅子

「虚言癖」という言葉だけでは、何が起きているか分からない

嘘の回数と、生活への支障は違う問い

日常会話の「虚言癖」は、頻繁に嘘をつく人への呼び名として使われます。一方、研究でいう病的な嘘は、頻度だけでなく、本人の苦痛や生活上の支障、行動を制御できる感覚なども問題にしています。単に話を盛る人の別名として扱うと、研究とのずれが生まれます。

CurtisとHartの2020年の調査では、解析対象623人のうち13%が、自分または周囲から病的な嘘をつく人と認識されていると回答しました。その群では苦痛や機能上の支障などが強く報告されました。ただし、臨床診断による分類ではなく、募集先にも偏りがあります。日本人全体の13%に当てはまるという数字ではありません。[1]

この研究は、病的な嘘を独立した診断対象として扱うことを提案する論文です。「研究者が定義を提案した」と「その定義で恋人を診断できる」は同じではありません。記事やチェックリストを読んで当てはめるだけでは、専門的な評価の代わりになりません。

回数が少なくても、結婚している事実や金銭に関わる重大な説明が偽りなら、判断への影響は大きくなります。反対に、回数を数えるだけでは、言い間違いや記憶違いまで同じ箱に入れてしまうおそれがあります。

食い違いを、すぐに意図的な嘘へ変換しない

「先週と言った」「いや、先々週だった」。こうした不一致が一つあるだけでは、意図的にだましたとは限りません。日付の取り違え、説明不足、言葉の意味の違いという可能性も残ります。

そこで最初は、人物の評価ではなく、確認できる事実を扱います。「あなたは嘘つき」より、「昨日は金曜日、今日は土曜日と聞いた。どちらの予定?」という問いのほうが、何が未確定なのか明確です。

ただし、説明が毎回変わる、訂正を求めると責められる、重要な判断を急かされるといった経過があれば、一つの記憶違いとして片づける必要もありません。単発の不一致と、その後の対応を分けて見ます。

記憶の違いと、相手の現実認識を揺さぶる支配を分けて考える

恋愛で嘘をつく心理――一つの原因にまとめない

怒られたくない、よく見られたい、距離を調整したい

恋人への嘘には、失敗を隠す、魅力的に見せる、衝突を避けるなど、異なる働きが考えられます。同じ「仕事だった」という説明でも、予定を忘れたことを隠す場合と、別の交際を隠す場合では、確かめるべき問題が変わります。

Coleの2001年の研究は、128組・256人の恋人同士を質問紙で調べました。相手も不正直だという認識、罰や否定的な反応を避けたい気持ち、愛着に関する信念という三つの説明に支持が得られています。ただし、調査で見つかった関連から、個人の嘘の原因を確定することはできません。[2]

ここでいう「反応を避けたい」は、嘘をつかれた側の責任を意味しません。「怒るあなたが悪いから嘘をついた」という説明があっても、誰がどの事実を偽って伝えたかという問題は残ります。

一方で、暴力や脅しがある関係で、居場所や相談先を明かさず安全を守ることまで、同じ意味で責めるべきではありません。正直さを求める議論にも、安全とプライバシーという前提が必要です。

見栄の説明と、人格の診断を分ける

高い評価を受けたい、失望されたくないという説明は理解しやすいものです。しかし、学歴や仕事の話を盛ったことだけで、自己愛性の障害などを診断することはできません。

また、本人が「自信がなかった」と説明したとしても、それで出来事の検討が終わるわけではありません。その説明が本当だとしても、これからどう訂正し、同じことを避けるかは別の課題です。

原因を理解しようとすることと、被った影響を引き受け続けることは違います。「事情は分かった。でも、この条件ではお金を貸せない」と、理解と判断を分けて構いません。

最初の嘘より、訂正できない構造が重くなる

たとえば、会う約束を忘れていたのに「急な仕事」と説明したとします。その場は収まっても、後で仕事内容を聞かれると、説明を追加しなければなりません。ここから先は、約束を忘れたことだけでなく、増えた説明をどう撤回するかが問題になります。

これは仕組みを考えるための例であり、誰もが同じ経過をたどるという法則ではありません。ただ、聞き手にとっては、新しい説明が増えるほど安心できるとは限らないことが分かります。

大切なのは話の細かさではなく、確認した事実と整合しているか、誤りが分かったときに訂正できるかです。具体的な話を長くできることと、正直であることは同じではありません。

少しずつずれて重なる三枚の透明なガラス

嘘は、ばれた瞬間だけに関係を傷つけるのか

嘘をつく側の「相手も嘘をついているはず」

Sprigingsらの2023年の論文は、776人の会話データ、416人の実験、399人の調査という三つの研究を報告しています。嘘をつくことは、相手への不信やつながりの弱さと関連しました。ただし、初対面の会話を含む研究であり、長年の交際の経過をそのまま説明するものではありません。[3]

興味深いのは、嘘を見抜かれた側の損失だけを調べていないところです。自分の言動が、他人をどう見るかにも関わる可能性が示されています。「ばれなければ関係には何も起きない」という見方を考え直す材料になります。

とはいえ、この結果を逆向きに使ってはいけません。恋人を疑っているから、その人自身も嘘をついているはずだとは言えません。 実際に何度も説明が変わったために、不信感が生まれている場合もあります。

研究が示す集団の傾向と、目の前の人を判断する証拠は別です。相手にも自分にも、心理学の言葉を押しつけないことが、このテーマでは特に重要です。

失われるのは、事実だけでなく「自分で決める機会」

ここからは、恋愛の意思決定という観点で考えます。嘘の影響は、不快な言葉を聞いたことだけには収まりません。本当の情報があれば別の選択をしたかもしれない、という問題があります。

「返せる」と聞いたから貸した。「独身」と聞いたから交際を始めた。「その日は空いている」と聞いたから休みを取った。説明を前提に行動した後で偽りが分かると、お金や時間だけでなく、自分の判断への自信まで揺らぎます。

そのため、信頼を戻す話し合いでは、「どれだけ反省しているか」だけでなく、「次の判断に必要な情報がそろうか」を確認する必要があります。謝罪があっても、不明点が同じままなら、大きな約束を急ぐ理由にはなりません。

見抜くより先に、四つの項目へ分ける

嘘の相談をするとき、気持ちと事実が一度に押し寄せて、どこから説明すればよいか分からなくなることがあります。次の図表は、話を整理するためのものです。虚言癖の診断や、別れるべきかの自動判定ではありません。

TRUST & CHOICE

「どんな人か」から、「何を確かめるか」へ

1|事実:何が違い、何が未確認か

以前の説明と今回の説明を、日付や内容で分けます。分からない部分は「未確認」のまま残します。

例:「先月返すと言っていた。今日は返せる日が分からないという説明だった」

2|影響:その説明で、何を決めたか

自分が動かしたお金や時間、断った予定などを整理します。相手の意図が不明でも、影響を確認することはできます。

例:「返してもらえると思い、必要な支払いに使うお金を貸した」

3|訂正:事実へ戻る話し合いができるか

誤りを具体的に訂正するか、別の話へそらすか、質問した人を責めるか。謝罪の強さだけでなく、その後の対応を見ます。

例:「どの説明を訂正するのか。その確認に必要な情報は何か」

4|次の判断:確認まで、何を保留するか

送金、同居、契約などの大きな判断を急がず、自分の条件を決めます。脅しや報復が心配なら、直接確かめる前に第三者へ相談します。

例:「返済の見通しが確認できるまで、追加では貸さない」

状況を整理するための図表です。診断、危険度の採点、関係継続の可否を判定するものではありません。入力や外部送信はありません。

「全部信じる・全部疑う」の二択をやめる

一つの嘘が分かると、過去のすべてを確認し直したくなることがあります。しかし、常に捜査を続けるような関係は、自分の生活も消耗させます。

すべての言葉を真実か嘘かに分類する前に、その情報で何を決めようとしているのかを考えます。今日の夕食を決める話と、同居や送金を決める話では、不確かさを残したまま進むことの重さが違います。

「まだ分からないので、今回は決めない」という選択肢もあります。これは相手の人格を否定することではなく、不確かな情報に自分の大切な判断を預けないための対応です。

表情やしぐさだけで嘘を断定せず、違和感を扱う方法

信頼を戻せるかは、謝罪の後の行動にも表れる

正直な対話と、正直に見える演出は同じではない

Leらの2025年の研究では、214組・428人の恋人が、相手に変えてほしいことについて話し合い、その時点と3か月後の結果が調べられました。表明された正直さや、相手から正直だと受け止められることは、関係満足度などと関連しました。病的な嘘の治療効果や、暴力のある関係での安全性を検証した研究ではありません。[4]

正直さが関係に役立つ可能性と、「正直そうに見えたら信じてよい」という結論は違います。涙、長い謝罪、詳しい説明は、その後の事実確認や行動変化を不要にするものではありません。

また、正直に話すことは、言いたいことを相手へ無制限にぶつけることでもありません。「本音だから」と侮辱する必要はなく、伝える内容と伝え方は両方考えられます。

落ち着いたカフェで対等に話を聞く二人のイメージ

訂正・影響・再発時の対応を具体的に

関係を続けるか考える際には、次のような点を整理できます。すべて満たせば安全という判定基準ではなく、話し合いを抽象的な約束だけで終わらせないための項目です。

  • 訂正:どの説明が違っていたのかを明らかにし、確認できる事実へ戻れるか。
  • 影響:こちらが失った時間やお金、判断への影響を、軽く扱わず受け止めるか。
  • 対応:次に説明が違ったとき、どう確認し、何をいったん保留するか。
  • 継続:一度の謝罪の後も、約束した対応が実際に続いているか。

たとえば、「もう絶対に嘘をつかない」だけでは、次に不一致が出たときに何をすればよいか分かりません。「予定が変わったら分かった時点で伝える」「確認できない金銭の依頼には応じない」など、行動に結びつく形へ置き換えます。

ただし、口座や端末を常時監視し合うことを、信頼回復の標準にする必要はありません。必要な確認を話し合うことと、相手のプライバシーを無制限に奪うことは別です。

確認の言葉を、責め合いの入り口にしない

安全に話せる関係なら、事実、影響、今後の対応を短く伝える方法があります。次は会話の例です。

「昨日は返済できると聞いたけれど、今日は日付が分からないと言われた。説明が変わると、私はお金の判断ができない。確認できるまでは、追加では貸さないことにする」

相手の動機を言い当てることより、自分がどの情報で困り、何を保留するかを示しています。ただし、これを言えば必ず穏やかに解決するという方法ではありません。脅しや報復が心配なら、対話の練習より先に第三者へ相談してください。

嘘が止まらない本人に、恋人ができることの限界

恋人を治療者にしない

CurtisとHartの臨床家調査では、295人の心理療法家が、病的な嘘を示す相談者との経験などを回答しました。支障は対人関係だけでなく、仕事や金銭などにも及ぶと報告されています。ただし、これは治療法を比較して改善率を測った試験ではありません。[5]

「愛情が足りないから治らない」「もっと安心させれば嘘はなくなる」と、恋人一人に解決を背負わせる根拠にはなりません。背景を理解しようとすることはできても、専門的な評価や支援まで代わりに担うことはできません。

本人が嘘を止められず困っている場合は、精神保健の専門家へ、具体的な経過と支障を相談する選択肢があります。診断名を先に決めて受診する必要はなく、「どんな場面で、何を言ってしまい、生活がどう困っているか」から話せます。

相談を勧めた後も、本人の取り組みと、自分が関係を続けるかの判断は分けて構いません。支援を受け始めたことだけで、信頼が直ちに回復したと考える必要はありません。

ノートに考えを整理する女性の手元

本人が相談するときに整理できること

自分の嘘に悩む読者なら、人格全体を責めるより、具体的な出来事を一つずつ整理するほうが、相談の材料になります。

  • どんな状況で、事実と違う説明をしたのか。
  • そのとき避けたかったこと、得たかったことは何だったか。
  • 訂正しようとしたとき、どんな難しさがあったか。
  • 相手と自分の生活に、どんな影響が出たか。

これは自己診断のための質問ではありません。説明しづらいことがあれば、その説明しづらさ自体を相談できます。相手からすぐ許されることを目標にするより、まず何を訂正し、どんな支援が必要かを扱います。

お金や脅しが絡むなら、原因探しより安全を優先

「二人の将来のため」という言葉で、送金を急がない

警察庁は、SNSやマッチングアプリで知り合い、会ったことのない相手から投資や結婚費用などを求められる手口に注意を促しています。恋愛感情があることと、説明の真偽や取引の安全性は別です。送金前に警察へ相談することが勧められています。[6]

こうした場合、「虚言癖だから仕方ないのか」と性格を分析しても、送金の危険は減りません。相手の説明だけでお金を動かすことを止め、警察相談専用電話#9110などへ相談してください。身の危険が迫る緊急時は110番です。[6][8]

会ったことがある人なら安心、という意味でもありません。金銭や契約の判断は、好意の大きさではなく、必要な情報が確認できるかという問題として扱います。

質問すると怖い、という段階でも相談へ

嘘の確認をしたら脅される、別れを切り出すのが怖い、連絡や交友を制限されている。そんな場合は、嘘の証拠を完璧にそろえることより、安全な相談方法を確保することが先です。

DV相談+は、DVかどうか迷う段階の相談も受け付けています。電話0120-279-889は24時間、チャットは12〜22時、相談箱は24時間受付です。受付と即時返信は同じではありません。2026年10月24日に公式案内を確認しています。[7]

共有端末や通知を見られる心配がある場合は、安全に使える連絡方法を検討してください。自分だけで真相を突き止めることを、相談の条件にしなくてよいのです。

嘘の仕組みを広く学びたい人へ

相手を見破る必勝法より、嘘と記憶、認知、病理の違いを知りたいなら、箱田裕司・仁平義明編『嘘とだましの心理学――戦略的なだましからあたたかい嘘まで』が読書の候補です。

出版社の目次では、錯覚、悪徳商法、証言、嘘の発達、虚言症、嘘の認知などを扱っています。恋愛の対処法だけに特化した本ではなく、嘘を複数の分野から考える概説書です。2006年刊行のため、最新研究や制度の確認には新しい一次資料も併せて読む必要があります。[9]

「嘘つきの特徴」を集める読み方から、嘘をどう捉え、何を確かめられるのかを考える読み方へ進みたい人に、内容が合うか目次を確認してみてください。

よくある質問

Q
小さな嘘が多い恋人は、病気なのでしょうか?
A

回数だけでは判断できません。日常語の虚言癖と、研究上の病的な嘘は同じではなく、生活上の支障や経過なども評価の対象になります。本人が困っている場合は、診断名を決めず具体的な出来事から専門家へ相談できます。

Q
嘘を指摘すると怒るのは、嘘の証拠ですか?
A

怒ったことだけで真偽や動機は確定できません。ただし、質問への脅しや報復は、嘘かどうかとは別に扱う問題です。怖さがある場合は、相手を試すより安全な相談を優先してください。

Q
愛情を伝え続ければ、虚言癖は治りますか?
A

恋人の愛情だけで改善すると保証できる研究は、この記事では示していません。本人の支援と、あなたの安全や負担は分けて考えられます。恋人が治療者の役割を背負う必要はありません。

Q
嘘を許せないなら、すぐ別れるべきですか?
A

一律には決められません。嘘の内容、反復、生活への影響、訂正後の行動、安全性を整理してください。結論が出るまで大きな約束を保留することもできます。脅しや金銭被害がある場合は、一人で判断を抱えず相談してください。

朝の川沿いを自分のペースで歩く女性のイメージ

相手の本性より、自分が判断できる条件を取り戻す

嘘の理由を知ると、理解が進むことはあります。それでも、動機の説明が、失われた信頼を自動的に修復するわけではありません。反省しているように見えることと、次の判断に必要な情報がそろうことも別です。

信頼を戻すなら、何が違っていたのかを訂正し、影響を扱い、その後の行動を確認する必要があります。まだ分からないことがあるなら、判断を急がず、必要な約束を保留できます。

すべての嘘を見抜けなくても、自分の人生の判断を保留することはできます。 相手の心を完全に説明できる日を待つより、今の自分が安心して選べる条件を、一つずつ取り戻していきましょう。

参考文献・一次資料

[1] Curtis & Hart(2020)Pathological Lying: Theoretical and Empirical Support for a Diagnostic Entity. 原文を読む

[2] Cole(2001)Lying to the One You Love: The Use of Deception in Romantic Relationships. 原文を読む

[3] Sprigings, Brown & ten Brinke(2023)Deception is associated with reduced social connection. 原文を読む

[4] Le et al.(2025)Expressed and Perceived Honesty Benefits Relationships Even When Couples Are Not Accurate. 原文を読む

[5] Curtis & Hart(2022、オンライン公開2021)Pathological Lying: Psychotherapists’ Experiences and Ability to Diagnose. 原文を読む

[6] 警察庁「SNS型ロマンス詐欺」。原文を読む

[7] DV相談+公式案内。原文を読む

[8] 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」。原文を読む

[9] 有斐閣『嘘とだましの心理学』書誌・目次。原文を読む

VIVA

Writer & Visual Artist based in Japan.

Former JGSDF member with professional experience in web writing and editorial direction.

Writing about relationships, communication, and human behavior, with a focus on research-informed perspectives, thoughtful analysis, and practical insights.

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