恋愛のサディズムとは?「傷つく姿を喜ぶ心理」と、冗談では済まない境界線

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嫌だと伝えた話題を、恋人がまた持ち出す。困った顔をすると、なぜか楽しそうに見える。「冗談も通じないの?」と言われ、怒ることさえためらってしまう。こんなとき、相手の心理を知りたくなるのは自然なことです。

心理学では、他者の苦痛を楽しむ傾向が「日常的サディズム」として研究されています。しかし、一度の笑顔や意地悪だけで、相手の性格や診断名を確定することはできません。 研究でいう傾向と、目の前の恋人の内心は、分けて考える必要があります。

では、内心が分からない限り、我慢するしかないのでしょうか。そうではありません。「なぜ傷つけるのか」という問いに答えが出なくても、「何をされたか」「嫌だと伝えた後にどうなったか」「自分の生活に何が起きているか」は整理できます。

この記事では、サディズム研究の実験、性格尺度をめぐる論争、恋愛への当てはめ方の限界を読み解きます。そのうえで、冗談や親密さの名で隠れやすい問題を、具体的な行動から考えます。身の危険が迫る場合は、読み進めるより安全を優先し、緊急時は110番へ連絡してください。[8]

開いた扉に向けて置かれた椅子と静かな部屋

サディズムは「強気な性格」と同じではない

研究が注目するのは、苦痛と楽しさの結びつき

日常的サディズムの研究が扱うのは、他者を傷つけたり、苦しむ様子を見たりすることに楽しさを感じる傾向です。単にリーダーシップがある、言い方が率直、主導権を取りたがる、といった特徴だけでは説明できません。[1]

ここで大事なのは、苦痛が偶然の副作用なのか、望ましい結果として扱われているのか、という違いです。意見が対立して相手を傷つけたことを後悔する場面と、傷ついた反応を面白がって繰り返す場面では、考えるべき問題が変わります。

ただし、外から見て楽しそうだったことと、本人が実際に苦痛を楽しんでいたことは一致するとは限りません。気まずさ、緊張、取り繕いなど、表情には複数の説明があり得ます。表情を読んで人格を決めるより、繰り返される言動と影響に目を向けるほうが、相談にもつながります。

「ドS」という自己紹介は、同意の代わりにならない

恋愛では「自分はドSだから」という言葉が、強気、からかい好き、性的な好みなど、違う意味で使われます。この一語から研究上のサディズムを判断することはできません。

反対に、その呼び名を使っていない人からでも、嫌がることを繰り返されたり、侮辱されたりする場合はあります。呼び名に問題を集約すると、「そういうキャラだから」で具体的な行為が見えなくなります。

「ドSだから仕方ない」と言われたときに確認したいのは、性格の由来ではなく、自分が嫌だと感じる行為を断れるかです。相手の自己紹介は、こちらが同意した証拠にはなりません。

他人を傷つけるために、手間までかけるのか

2013年の実験が問いかけたもの

Buckelsらの2013年の研究は、二つの実験室課題を使って日常的サディズムを検討しました。一方は虫を殺す役割の選択を扱い、もう一方は無関係な相手を傷つける機会のために労力を払うかを調べています。後者では、サディズムの尺度が、その機会を得るために働く行動を予測しました。[1]

この研究の面白さは、怒りが爆発した場面だけに注目していないところです。「怒ったから傷つけた」だけでは捉えにくい、攻撃の機会そのものを求める動機を検討しています。

ただし、実験課題での行動は、日常生活のすべてを再現するものではありません。この結果から、意地悪な発言をした恋人が必ず同じ動機を持つ、という結論には飛べません。また、実験室の尺度は、交際相手を家庭で診断するためのチェックリストでもありません。

研究の役割は、現実を一つの説明に閉じ込めることではなく、説明の候補を増やすことです。「悪気がないに決まっている」と決めつける必要も、「全部わざとだ」と確信する必要もありません。

影が重なり合う三つの透明なプリズム

8研究・2,255人――快感は、攻撃の前後で同じではない

Chesterらの2019年の論文は、計2,255人を対象とした8研究を報告しています。サディズムは、挑発した相手だけでなく、無関係な相手への攻撃とも関連しました。攻撃中の肯定的な感情は、相手が苦痛を受けたという認識と結びつく一方、攻撃後には否定的な感情の増加も関連していました。[2]

「傷つけると幸せになる人」と一言でまとめると、この時間の違いが消えてしまいます。その場で感じる刺激と、後から残る気分は別です。相手が後で落ち込んだり謝ったりしたからといって、それ以前の攻撃が楽しまれていなかったとは断定できません。逆に、後悔した様子だけからサディズムを推測することもできません。

ここから考えられるのは、関係を評価するときも一場面だけを切り出さないほうがよい、ということです。発言の瞬間、こちらが嫌だと示した後、次に似た場面が来たとき。それぞれで何が起きたかを見ると、「謝罪はあったが繰り返された」といった経過が整理できます。

この研究は脳内のドーパミンを測定した証拠として紹介できるものではありません。「報酬」「快感」という心理学の表現を、そのまま特定の脳内物質や脳の異常へ置き換えないことも必要です。

ダークトライアドから、四つの特性へ――ただし境界は論争中

名前が四つあっても、人間が四種類になるわけではない

研究では、自己愛傾向、マキャベリアニズム、サイコパシー傾向をまとめてダークトライアドと呼び、サディズムを加えた枠組みをダークテトラッドと呼ぶ場合があります。ここでいう特性は、必ずしも臨床上の診断名を意味しません。[3]

これを「恋人はどの悪人タイプか」という分類に変えると、研究が本来扱う程度の違いや、測定の重なりが見えなくなります。自分を大きく見せる行動、相手を操作する行動、苦痛を面白がる行動は、現実では一人の中に重なって現れることもあります。

名前が違えば、独立した心の仕組みが一つずつ存在する。そう考えたくなりますが、質問紙の研究では、その前提自体を確かめる必要があります。

2025年刊行の追試が突きつけた、尺度の重なり

Blötnerらの研究は、1,076人と507人の二つの標本で、長い質問紙も使ってサイコパシー傾向と日常的サディズムの区別を検討しました。両者を表す潜在因子は非常に強く相関し、ほかの特徴との関連も似ていました。独立した概念としての区別に疑問を投げかける結果です。オンライン公開は2024年、掲載号は2025年です。[3]

これは「苦痛を楽しむ現象など存在しない」という意味ではありません。現象があることと、それを別々の性格尺度で明確に測り分けられることは、違う問題です。 初期研究の独立性を支持する結果と、後続研究の重なりを示す結果の両方を置くことで、言葉の射程が見えてきます。

この論争は、身近な関係を考えるときにも役立ちます。ラベルの精密さに期待しすぎないことです。「サイコパスかサディストか」を確定できなくても、侮辱が続いていることや、断ると怖い思いをすることは扱えます。

恋愛の研究で分かること、まだ分からないこと

オンラインの監視や攻撃との関連

NowakowskiとGubałaの2025年の研究は、若い成人200人を対象に、性格特性と恋人間のオンライン上の暴力を質問紙で調べています。女性が72%を占め、ダークトライアドとサディズムの程度は、加害・被害の経験と関連していました。自己報告の関連から、性格が原因だと断定したり、被害者の責任を導いたりすることはできません。[4]

恋愛に直接関わる研究があることと、特定の相手の未来を正確に予測できることは別です。人数、性別構成、文化、質問の仕方が変われば結果も変わり得ます。集団で見つかった関連を、恋人一人の危険確率に変換することはできません。

既読の確認や連絡の多さも、それだけでサディズムを意味しません。一方で、拒否しているのに監視を続ける、私的な情報で辱める、交友を制限する、といった具体的な出来事は、性格診断とは別に相談できます。

被害の説明に、相手の診断書はいらない

内閣府は、精神的な暴力の例として、人前でばかにする、交友を制限する、電話などを細かく確認する、といった行為を挙げています。例示されたすべての行為が法律上同じ扱いになるわけではありませんが、相談の対象となり得ることが示されています。[6]

大事なのは、「相手が本当に楽しんでいた」と証明できないことを、自分の苦しさを取り下げる理由にしないことです。動機が未確定でも、行為と影響は残ります。

「本人は冗談と言っている。でも、その話題をやめてほしいと伝えても続き、友人の集まりへ行けなくなった」。こうした説明のほうが、「恋人がサディストです」という一語より、状況を第三者と共有しやすくなります。

モラハラのサインを、性格の決めつけではなく具体的な言動から整理する

冗談と傷つける行為を分ける、四つの問い

以下は診断や危険度の採点ではありません。自分の経験を整理するための視点です。相手を試すためにわざと拒否したり、対決したりする必要はありません。すでに起きた出来事を振り返り、安全に話せる相手へ伝える材料として使ってください。

CONSENT / STOP / REPEAT / LIFE

性格の診断より、起きている行動の確認

項目を開くと、振り返る視点が読めます。

01|同意:二人とも望んでいる?

笑っていたことだけでは、同意の確認になりません。断ったら不機嫌になる、関係が壊れそうで合わせている場合もあります。

その場で断っても、不利益を受けずにいられるかを考えます。

02|中止:「嫌だ」の後に何が起きた?

好みの違いが分かった時点でやめるのか、過敏だと責めたり、もっと続けたりするのか。説明より、その後の行動が手掛かりになります。

危険を感じる相手に、反応を試すための対決をする必要はありません。

03|反復:謝罪の後も繰り返している?

一度の謝罪や優しい時間だけで、変化を判断しません。同じ行為が続いているか、責任をあなたに戻していないかを見ます。

安全に振り返れる範囲で、行為とその後の対応を分けて整理します。

04|生活:選べる範囲が狭くなっていない?

友人に会う、連絡を返さず休む、自分でお金を使う。普通の選択に罰や恐怖が伴っていないかを確かめます。

性格の名前が分からなくても、生活への影響は相談できます。

診断尺度や危険度の採点表ではありません。安全を優先し、一人で結論を出す必要はありません。

見るべきなのは「笑っていたか」より、その後の扱い

二人で笑っていたとしても、一方は場を壊さないために合わせていたのかもしれません。笑いがあった事実だけで、自由な同意があったとは決まりません。

一度言いすぎてしまった後に、相手が困ったと知ってやめる場面があります。一方で、「嫌がるから面白い」と繰り返し、嫌だと言ったこと自体を責める場面もあります。この違いを記述することは、内心を読み切るより現実的です。

ただし、拒否した後の反応を確かめるために、危険な会話をあえて行う必要はありません。怖さがあるなら、「断ると何をされるか不安」という段階で相談してください。

落ち着いたカフェで互いの話を聞く二人のイメージ

合意のある性的な好みと、同意のない加害を混同しない

「サディズム」という同じ言葉が使われるため、性格研究、性的な好み、精神医学上の診断が混ざりやすいテーマです。ここまで扱った日常的サディズムは、性的な関心だけを対象にした概念ではありません。

米国精神医学会は、非典型的な性的関心そのものと、精神的な苦痛や他者への害などを伴う障害を区別する説明をしています。成人同士の合意のある好みを、直ちに精神疾患や加害性の証拠とみなすことはできません。[5]

実際の関係では、何を好むかだけでなく、断れるか、途中でやめられるか、その意思を尊重されるかを切り離さず考える必要があります。一度同意したことが、以後すべての行為への同意になるわけではありません。

「好きなら応じるはず」「前は嫌がらなかった」と押されて困っている場合、相手の性的嗜好を分類するより、その場で自分の意思が尊重されているかに目を向けます。内閣府も、嫌がっているのに性的な行為を強要することを暴力の形態として挙げています。[6]

対処の順番――心を読み切る前に、生活を守る

まず、行為・影響・心配を分ける

相手の言動を考え続けると、「なぜ?」が頭の中を回り続けることがあります。その問いをいったん三つに分けてみます。

  • 行為:実際に言われたこと、されたこと。解釈と分けて短く整理します。
  • 影響:睡眠、仕事、交友、金銭、身体や気持ちに、どんな支障が出ているか。
  • 心配:相談が知られること、拒否や別れを伝えることについて、何が怖いか。

たとえば、「私が泣くのを楽しんでいる」は内心の推測を含みます。「泣いてやめてほしいと言った後も、同じ話題で責め続けられた」は行為の説明です。前者を感じた自分を否定する必要はありませんが、後者も添えると、支援する人が状況を捉えやすくなります。

記録を残す場合も、安全にできる範囲に限ります。共有端末や通知を見られる心配があるときは、記録の充実より、安全な連絡方法を相談することを優先してください。

閉じたノートと携帯電話を前にした女性の手元

「反応しなければやめる」を万能策にしない

苦痛への反応が相手の楽しさに関わる研究を読むと、「無反応になればいい」と考えたくなるかもしれません。しかし、実験結果から、あらゆる交際関係で無反応が安全で有効だとは言えません。

反応を変えたとき、相手がさらに強い言動に出る可能性を個別に考える必要があります。研究で示された動機の説明を、そのまま自分の安全対策へ変換しないことが大切です。

同じ理由で、相手を傷つけ返す、嫉妬させて試す、心理学用語で追い詰める、といった対決を勧めることもできません。目的は人格を暴くことではなく、自分が安全に生活を続けられる条件を確保することです。

まだ別れるか決めていなくても相談へ

DV相談+は、「これってDVかな」と迷う段階の相談も受け付けています。電話は0120-279-889で24時間、チャットは12〜22時、相談箱は24時間受付です。受付と即時返信は同じではありません。2026年10月24日に公式案内を確認しています。[7]

緊急でない生活の安全に関する警察相談は#9110、緊急通報は110番です。相手に連絡を知られる心配がある場合は、安全に使える端末や対面の相談先を検討してください。[8]

最初に「相手の性格を診断してほしい」と言わなくても構いません。「こういうことが続いている。嫌だと言うのが怖い。安全にできる準備を知りたい」。その相談で十分です。

「離れられない」を責めず、恐怖・生活・孤立・期待を分けて考える

関係の支配を、もう少し深く理解する一冊

「嫌だったと伝えると、自分の感じ方がおかしいと言われる」。そんな困りごとも重なっているなら、アメリア・ケリー著、野坂祐子訳『ガスライティングという支配』が読書の候補です。出版社の紹介と目次では、親密な関係での支配や、自分の感情を守ること、境界線などを扱っています。[9]

これはサディズムを判定する本としての紹介ではありません。相手の動機を当て続けるより、自分が経験している関係を言葉にしたい人に向くテーマです。掲載されているワークも、すべての人への効果や安全性が保証されるわけではなく、個別の相談の代わりにはなりません。

各ストアで目次や版を確認し、今の困りごとに合うかを見てください。購入や配送の履歴を相手に見られる心配がある場合は、安全を優先しましょう。

よくある質問

Q
恋人が「ドS」と言っていたら、サディストですか?
A

その言葉だけでは判断できません。日常会話の「ドS」、研究上の性格傾向、性的な好み、臨床上の診断は同じではありません。呼び名より、嫌がる行為が続くか、断る自由があるかなど、具体的な状況を整理してください。

Q
泣いている私を見て笑ったら、サディズムですか?
A

一度の表情から内心や性格を確定できません。ただし、笑った理由が分からなくても、嫌だと伝えた後に侮辱や追及が続くことは相談できます。表情の解釈と、実際の言動・影響を分けて伝えると整理しやすくなります。

Q
反応しなければ、傷つける行為は止まりますか?
A

すべての関係で有効・安全だとは言えません。相手の反応が強まる心配がある場合は、独力で試すより安全面を相談してください。研究の実験結果は、個別の関係に対する対処法の保証ではありません。

Q
サディズムの傾向は治りますか?
A

ここで紹介した研究は、個別の人が変化する確率や治療効果を示すものではありません。本人の評価や支援は専門家の領域です。相手の変化を待つかどうかとは別に、自分の安全と相談先を確保して構いません。

朝の庭園を自分のペースで歩く女性のイメージ

苦痛を説明するために、相手の心を解き明かさなくてよい

サディズム研究は、人を傷つける行動を怒りや衝動だけで説明しない視点を与えます。一方で、尺度同士の境界にも議論があり、恋人の心を読む万能の道具ではありません。

この二つを同時に受け止めると、「悪気がないなら我慢する」と「悪人だと証明できたら離れる」の間に、別の道が見えてきます。動機が分からないままでも、行為の中止を望み、距離や相談を考えることはできます。

自分の苦痛が尊重されるために、相手の性格を正しく命名する必要はありません。 分からない内心を追い続ける時間の一部を、自分の生活を守るために使ってよいのです。

参考文献・一次資料

[1] Buckels, Jones & Paulhus(2013)Behavioral Confirmation of Everyday Sadism. Psychological Science, 24(11), 2201–2209. 原文を読む

[2] Chester, DeWall & Enjaian(2019)Sadism and Aggressive Behavior: Inflicting Pain to Feel Pleasure. Personality and Social Psychology Bulletin, 45(8), 1252–1268. 原文を読む

[3] Blötner et al.(2025、オンライン公開2024)Measures of Subclinical Psychopathy and Everyday Sadism are Still Redundant: A Conceptual Replication and Extension of Blötner and Mokros (2023). Journal of Personality, 93(5), 1125–1138. 原文を読む

[4] Nowakowski & Gubała(2025)Dark personality traits and cyber-dating abuse: The moderating role of empathy. Archives of Criminology, 47(1), 161–189. 原文を読む

[5] American Psychiatric Association, Paraphilic Disorders(DSM-5解説資料)。原文を読む

[6] 内閣府男女共同参画局「暴力の形態」。原文を読む

[7] DV相談+公式案内。原文を読む

[8] 警察庁「ご意見、各種相談・情報提供等」。原文を読む

[9] 日本評論社『ガスライティングという支配』書誌・目次。原文を読む

VIVA

Writer & Visual Artist based in Japan.

Former JGSDF member with professional experience in web writing and editorial direction.

Writing about relationships, communication, and human behavior, with a focus on research-informed perspectives, thoughtful analysis, and practical insights.

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