「もう別れよう」と送った。別れたかったわけではない。「そんなこと言わないで」と、引き止めてほしかった。
ところが返ってきたのは、「わかった」の一言。そこで初めて、本当は何を言いたかったのかが、はっきりする。
恋愛の試し行動には、こんなすれ違いが潜んでいます。寂しさや不安をそのまま伝える代わりに、相手を困らせたり、嫉妬させたりして反応を確かめる。けれど、その反応は愛情の量だけで決まるものではありません。突然の言葉への驚き、疲れ、あるいは「相手の決断を尊重しよう」という判断も混ざります。
安心していいかを確かめたくなる気持ちと、確かめるために相手を傷つける行動は、分けて考えられます。我慢して何も言わない関係を目指す必要はありません。伝え方と、返事の受け取り方を変える余地があります。
恋愛の「試し行動」とは?返信の遅さだけでは決められない
ここでいう試し行動は、本当の希望を明かさず、相手の反応から好意や忠誠を確かめようとする行動です。たとえば、一緒にいたいのに別れを持ち出す、追いかけてほしくてわざと冷たくする、嫉妬するかを見るために他の人の好意を強調する、といった場合です。
ただし、「試し行動」は、この言葉だけで病気や性格を診断できる名称ではありません。忙しくて返信できない、怒りを鎮めるために会話を中断する、本当に別れたいと告げる。外から似て見える行動でも、意味は違います。
「返信が遅いから試している」「別れると言うのは、かまってほしいだけ」と決めつけると、相手が伝えている事情や意思を消してしまいます。見たいのは、何を求めていたか、それを相手にも分かる形で伝えたか、断られたときにどうしたかです。
| 場面 | 反応を試す | 希望を伝える |
|---|---|---|
| 会いたい | 別れを持ち出し、引き止めるかを見る | 寂しさと、会える日の相談をする |
| 気にかけてほしい | 他の人の好意を強調して、嫉妬を待つ | 次の予定を相手からも提案してほしいと頼む |
| 会話を休みたい | 追いかけてくるまで黙り続ける | 休みたい理由と、再開の目安を伝える |
同じ「今夜、話せる?」でも、断られたら翌日に調整できるお願いと、断った途端に人格を責められる要求では、相手が選べる範囲が違います。言葉遣いを柔らかくするだけでなく、相手に断る余地を残すことまでが、伝え方です。
なぜ試したくなるのか――欲しいのは返事より「確かな証拠」
「お願いして得た優しさでは足りない」という落とし穴
「会いたいと言ったから会ってくれただけでは?」「好きか聞いたから、好きと答えただけでは?」。こう考えると、素直に頼むほど、もらった返事を信用しにくくなります。何も言わずに察してくれた行動だけを、本物の愛情として数えたくなるのです。
しかし、相手は採点基準を知らされていません。こちらは「追いかけてくれたら合格」と思い、相手は「一人になりたいと言われたから、そっとしておこう」と考える。配慮が不合格になる試験では、二人とも途方に暮れます。
試し行動の難しさは、測ろうとする行動そのものが、相手の反応を変えてしまうことです。別れ話を聞いたときの態度は、穏やかに過ごしているときの気持ちを、そのまま映す鏡にはなりません。激しく引き止めることも、静かに受け止めることも、それだけでは愛情の証明にならないのです。
一度安心しても、次の確認が欲しくなる
安心を求めること自体は珍しいことではありません。問題を考える目安になるのは、返事をもらっても安心が短く、同じ確認を繰り返すことで生活や関係に負担が出ているかです。
西オーストラリア州の臨床心理機関CCIは、安心確認が一時的には不安を和らげても、繰り返し頼ることで不安が維持される場合を説明しています[3]。ただし、これは不安への対処についての資料であり、恋人を意図的に困らせる行為と、安心を求める行為を同一視するものではありません。
「どうせ見捨てられる」と感じる背景を、一律に幼少期や愛着の問題へさかのぼる必要もありません。過去の経験だけでなく、現在の関係で約束が守られていない可能性もあります。不安を全部「自分の考えすぎ」にしてしまうと、話し合うべき現実の問題まで残ります。
起きた事実と、頭の中で広がった予測を分けたいときは、恋愛の不安を整理する考え方と記録の方法も役立ちます。
研究を読むと、「安心を求めるほど嫌われる」とは言い切れない
110組・14日間の記録が示した、単純ではない関係
Evraireらの研究は、カナダで同居する異性愛カップル110組を対象に、14日間、安心を求める行動と相手への信頼などを記録してもらいました[1]。見捨てられることへの不安が強い傾向は、日々の安心確認の多さと関連していました。
ただし、確認した翌日に信頼がどう変わるかは一様ではありません。たとえば、親密さを避ける傾向の強い男性が安心を求めたとき、そのパートナー側の翌日の信頼が高いという関連も報告されています。研究が想定した「不安の強い人の安心確認が、相手の信頼を下げる」という結果は支持されませんでした。
これは、安心確認を何度してもよいという意味でもありません。「好きか聞いてしまった自分は、もう関係を壊している」と即断する根拠にはならない、ということです。普段頼らない人が頼る場面と、返事を毎回疑い直す場面を、一括りにはできません。
この調査は自己報告による観察研究です。参加者は比較的満足度の高いカップルが多く、安心確認には短い質問項目が使われています。日本の恋人全般にそのまま当てはめたり、男女の性格の違いとして断定したりはできません。また、研究上の「過剰な安心確認」は、わざと別れを告げる行動そのものを測った概念ではありません。
わざと嫉妬させる行動は、別の問題として扱う
Kaufman-Parksらは、米国の若年成人892人を対象に、意図的に嫉妬を誘う行動と関係の特徴を分析しました[2]。嫉妬を誘う行動は、言い争いや関係への不確かさなどと関連し、家庭背景や関係の特徴などを統計的に調整した後も、パートナー間の身体的暴力の報告との関連が残りました。
ただし、主要な関係指標と嫉妬を誘う行動は同じ時点で測られています。したがって、この結果だけで「嫉妬させたことが暴力を引き起こした」とは言えません。暴力の指標は加害・被害の両方を含み、回答も一方の当事者によるものです。暴力を受けた人の責任を問うための研究結果ではありません。
ここから、嫉妬を「関係をよくする便利な刺激」と扱うことには慎重でありたいと思います。強い反応を引き出せても、その反応が信頼の深まりを意味するとは限らないからです。
試してしまいそうなとき、本当のお願いに戻す

送る前に、「何をしてほしかったか」を一行にする
別れ話や相手を挑発する文面を送る前に、いったん下書きに戻してみます。そこで書くのは、相手の落ち度の一覧ではなく、今してほしいことです。「大事にしてほしい」だけでは広いので、「次に会う日を決めたい」「今日は少し話を聞いてほしい」まで小さくします。
すぐに確認したい衝動が強いとき、CCIの資料では、確認行動を減らす、少し先に延ばすといった方法が紹介されています[3]。最初から長く耐える競争にせず、まずスマホを置いて一息つくところから。予定の確認や、実際の安全に関する連絡まで後回しにする必要はありません。
「別れよう」の代わりに、会いたい予定を相談する
本当は別れたくないのに、「もう別れた方がいいね」と送ろうとしているなら、たとえばこう伝えます。
「最近、会う日が決まらなくて寂しかった。私は会いたいと思っている。今週が難しければ、来週の予定を一緒に決められる?」
これなら、相手は何を相談されているか分かります。来週も難しいと言われたら、次は都合や交際への考えを聞く段階です。望んだ返事が来なかったから、さらに強い言葉で試す段階ではありません。
「嫉妬しないの?」の代わりに、欲しい関心を伝える
他の人に誘われた話を使って反応を見たくなったときは、欲しかった関心を直接言葉にします。
「最近、私から話しかけることが続いて、少し寂しかった。次に会う場所は、あなたからも提案してもらえるとうれしい」
ここで求めているのは、相手が不安になることではなく、関係づくりに参加してくれることです。嫉妬の強さを比べるよりも、予定を提案する、話を聞く、約束を守るといった普段の行動を見た方が、相談すべき点が具体的になります。
返事を受け取るところまでを、一つの会話にする
「今日は疲れていて、明日なら話せる」と返ってきたとします。その返事をすぐ「好きなら今できるはず」に翻訳せず、明日の時間を相談する。断られたことと、大切にされていないことを、その場で同じ意味にしない練習です。
もちろん、毎回先延ばしにされ、代案もなく、約束も守られないなら別の問題です。上手なお願いを続ければ必ず関係がよくなるわけではありません。伝え方を整えたうえで、相手が応じようとしているかを見る必要があります。
お願いの組み立て方を練習したい方は、恋人とのアサーション――自分も相手も大切にする伝え方へ。相手を説得しきることを目標にせず、具体的な希望を相談する方法を扱っています。
言い換え例を覚えるだけでなく、日常の自己表現から見直したい場合には、平木典子『アサーション入門――自分も相手も大切にする自己表現法』(講談社現代新書)という入門書もあります。恋愛の試し行動を治療する本ではなく、自分と相手の両方を尊重して話すための基礎を学ぶ一冊です。
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すでに試して傷つけたら、謝罪に「引き止めて」を混ぜない
「別れると言ったのは、引き止めてほしかったから。だから本気にしないで」。事情は説明できても、相手に与えた不安は、それだけでは消えません。「あなたがもっと安心させてくれれば」と続けると、謝罪が相手への要求に変わってしまいます。
たとえば、「本当は会いたかったのに、別れると言って反応を試した。傷つけてごめん。次は会いたいと伝える。今すぐ許してほしいとは言わない」と、行動、影響、これから変えることを分けて伝えます。
相手が距離を置きたいと言った場合、その希望を尊重することも修復の一部です。謝った直後に「まだ好き?」「絶対別れない?」と保証を求め続けると、相手が気持ちを整理する時間を奪ってしまいます。
次に不安になった場面で、同じ方法を使わずに相談できたか。信頼の回復は、立派な反省文よりも、そうした小さな場面の積み重ねで確かめる方が現実的です。
試される側は、気持ちを受け止めても要求を全部のむ必要はない

「安心させれば試さなくなるはず」と、一人で頑張り続けていませんか。気持ちを聞くことと、友人関係を捨てる、スマホを毎回見せる、予定をすべて取り消すことは別です。
「寂しかったことは聞きたい。でも、別れ話で確かめられると、私は続けていいのか分からなくなる。会いたいときは、そう言ってほしい」。そんなふうに、受け止められる話と、応じられない方法を同時に伝えられます。
安心確認が繰り返される場合、CCIの支える人向け資料は、対応を変えることを前もって話し、相手の不安を認めながら支える姿勢を勧めています[4]。罰として突然無視することとは違います。本人が変えたいと思っているなら、落ち着いたときに、繰り返しの確認へどう対応するか相談します。
ただし、恋人が治療者になる必要はありません。眠れない、仕事や学業に支障が出る、やめようとしても繰り返して苦しい場合は、本人が心理職や医療機関などへ相談する選択肢があります。診断名を相手に貼ることより、生活にどんな困りごとが出ているかを伝える方が相談につながります。
確認が位置情報の提出や交友関係の制限に広がっているなら、恋愛の束縛――不安と支配の境目で、断る自由が残っているかも確かめてください。
脅しや恐怖があるときは、話し合いの工夫より安全を優先する
断ると物を壊す、帰らせない、暴力を振るうなどの行動を、「愛情を試しているだけ」で済ませる必要はありません。二人きりで納得させようとせず、信頼できる人や相談機関と安全な対応を考えてください。
配偶者などからの暴力について相談先が分からないときは、内閣府のDV相談ナビ(#8008)が地域の窓口につなぎます。通話料がかかり、受付は接続先の時間によります。切迫した危険には110番、けがや命の危険には119番を利用してください。別れを止めるために自傷をほのめかされた場合も、一人で交際継続を約束して抱え込まず、緊急性に応じて救急などにつなぎます。
よくある質問
- Q試し行動をする人は、愛情が深いのですか?
- A
行動の強さから愛情の深さは測れません。不安や関係への不確かさが関わる場合もありますが、一つの行動から理由を断定することはできません。強く反応するかより、互いの希望や断る意思を尊重できるかを見てください。
- Q試し行動をされたら、無視すればよいですか?
- A
罰としての無視は勧めません。話せる状況なら気持ちを聞きつつ、別れ話で試すことや行動を制限する要求には応じられないと伝えます。恐怖や暴力がある場合は、話し合いで解決しようとせず安全な距離と外部の支援を優先してください。
- Q「別れたい」は、本気ではなく試しているのでしょうか?
- A
本人に確認せず、試し行動だと決めつけることはできません。落ち着いて意思を確認し、別れたいという意思が示されたら尊重します。追いかければ解決する、拒否は本心ではない、と読み替えないでください。
- Q試してしまう癖は、自分で変えられますか?
- A
まず一つの場面で、反応を試す代わりに希望を直接伝えることから始められます。ただし、苦痛や生活への支障が強い場合は一人で抱え込まず心理職や医療機関などへ相談してください。特定の方法で必ず治る、何日で変わるとは言えません。
愛情を、抜き打ち試験にしないために
「聞かなくても分かってほしい」という願いには、自然な切なさがあります。けれど、何も言わずに分かり合うことだけを愛情の条件にすると、言葉で近づける機会まで失ってしまいます。
次に試したくなったら、「この反応が欲しい」の一歩手前に戻ってみる。会いたいのか、話を聞いてほしいのか、守ってほしい約束があるのか。そこまで分かれば、恋人に渡すものは答案用紙ではなく、相談に変わります。
参考文献・相談先
- Evraire, L. E., Dozois, D. J. A., & Wilde, J. L. (2022). The Contribution of Attachment Styles and Reassurance Seeking to Trust in Romantic Couples. Europe’s Journal of Psychology, 18(1), 19–39. DOI: 10.5964/ejop.3059.
- Kaufman-Parks, A. M., Longmore, M. A., Giordano, P. C., & Manning, W. D. (2019; online 2018). Inducing jealousy and intimate partner violence among young adults. Journal of Social and Personal Relationships, 36(9), 2802–2823. DOI: 10.1177/0265407518802451.
- Centre for Clinical Interventions. Reducing Reassurance-Seeking(PDF). 安心確認への対処を扱う一般向け資料。
- Centre for Clinical Interventions. Responding to Reassurance-Seeking(PDF). 家族や身近な人向けの支援資料。
- 内閣府男女共同参画局. DV相談について.
