浮気は遺伝する?論文で読む「浮気遺伝子」と遺伝率の本当の意味

二重らせんのオブジェと二つのカップ、窓の向こうに分かれる道のイメージ Love & Relationships

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「親も浮気をしていたから、あの人も変わらないのでは」。傷ついたとき、家族の過去まで一本の線でつながって見えることがあります。「遺伝子のせい」と言われれば、怒ることさえ無意味に思えるかもしれません。

浮気に関連する行動の個人差に、遺伝的な違いが関わると示した研究はあります。しかし、血筋から誰かの浮気を決めつけたり、遺伝率をその人が浮気する確率として読んだりすることはできません。

この記事では、双生児研究、DRD4やAVPR1Aを調べた研究、大規模なゲノム研究を読み分けます。知りたいのは遺伝子の名前だけではありません。その研究は何を測り、どこまで言えて、目の前の関係を考えるときに何が残るのか。そこまで整理します。

先に押さえたい、三つの異なる問い

「浮気は遺伝するか」という短い問いには、実は別々の疑問が入っています。人々の違いに遺伝が関わるか。特定の遺伝子の型と行動が関連するか。そして、その情報から一人の将来を予測できるかです。

最初の問いに肯定的な結果があっても、三番目まで自動的に答えが出るわけではありません。研究の結論を日常へ持ち帰る途中で、この段階が省略されがちです。

  • 集団の違い:調べた人々の行動のばらつきに、遺伝的な違いがどれほど関わるか。
  • 特定の関連:ある遺伝子の型を持つ群と持たない群で、測定した行動に差があるか。
  • 個人の予測:まだ結果を知らない人について、いつ、どの行動が起きるかを十分な精度で予測できるか。

例えば、ある特徴と行動の関連が見つかっても、その特徴を持つ人の全員が同じ行動をするとは限りません。「関連する」という研究の言葉を「見抜ける」という日常の言葉に置き換えるには、別の検証が必要です。

図書館で論文を読み解くための本と虫眼鏡のイメージ

遺伝率40%は「40%の確率で浮気する」ではない

遺伝率とは、ある集団・環境で観察された特徴のばらつきのうち、遺伝的な違いで説明される割合を表す統計的な概念です。個人の行動を遺伝と環境に何割ずつ切り分ける値ではなく、環境や集団が変われば推定も変わります。また、遺伝率だけでは、その特徴の変えやすさは分かりません。[1]

ここで主語を確かめてください。主語は「あなたの将来」ではなく、「調べた集団の中の違い」です。40%という数字を見ても、100人中40人が浮気するとも、浮気の責任の40%が遺伝にあるとも読めません。

もう一つの混同は、家族の中で似ていることと、遺伝によって似ていることです。家庭では生活習慣、考え方、経験する出来事なども共有されます。家族の似かよりを見ただけで、その原因を遺伝に限定することはできません。[1]

双生児研究は何を比べているのか

双生児研究では、一卵性と二卵性の双生児などで特徴の似かより方を比べ、モデルを使って遺伝と環境の寄与を推定します。遺伝子を一つずつ特定する研究とは違います。[1]

この方法で得られるのは、一定の前提を置いた集団についての推定です。家族の逸話から「うちはそういう家系だから」と判断することとは、調べ方も結論の範囲も違います。

異なる光の中で育つ二つの鉢植えのイメージ

浮気を扱った代表的な論文と、その射程

2004年:英国の女性双生児を調べた研究

Cherkasらは、英国の女性双生児1,600組超を対象に、浮気経験や生涯の性的パートナー数などを調査しました。浮気の遺伝率を41%と推定した一方、検討したAVPR1Aの領域と浮気との関連は確認できませんでした。[2]

この結果には、二つのメッセージが並んでいます。集団の個人差に遺伝的な寄与が示されたことと、検討した特定の遺伝子との関連が確認されなかったことです。前者だけを取り出して「浮気遺伝子が発見された」と見出しにすると、後者が消えてしまいます。

2015年:フィンランドの双生児ときょうだい7,378人

Zietschらは、フィンランドの双生児とそのきょうだい7,378人のデータから、関係外の性的行動について、男性62%・女性40%の広義の遺伝率を報告しました。別の遺伝子解析では女性のAVPR1Aに関連が見られましたが、男性では確認されず、OXTRでは男女とも有意な関連は検出されませんでした。著者らは推定の不確実性や、過去の研究を直接再現した結果ではない点も述べています。[3]

ここでも、男性62%という数字は、男性の62%が浮気するという意味ではありません。また、男女で数字が違うことだけを根拠に、個々の男性と女性の誠実さを順位づけることもできません。

研究間の比較では、質問の期間や対象にも注意が必要です。生涯の経験を尋ねる場合と、一定期間の行動を尋ねる場合では、同じ「経験あり」でも含まれる情報が異なります。期間の違う数字を、そのまま同じ物差しで並べないことが大切です。

2010年:DRD4研究で見落とされやすい結果

Garciaらは米国の大学で若者181人を調べました。DRD4の型による浮気経験の有無の差は、有意水準5%では有意ではありませんでした(p=0.14)。一方、浮気経験を報告した人に限ると、関係外の性的パートナー数に群間差が見られました。著者ら自身も、代替説明が残り、決定論的な結果ではないと注意しています。[4]

「浮気を経験する人が多い」という問いと、「すでに経験した人の中で相手の人数が違う」という問いは別です。後者の結果を前者の予測に使うと、対象者を絞ったという重要な条件が抜け落ちます。

これは浮気研究に限らない読み方です。ニュースで「増加」「倍」といった言葉を見たら、まず何が増えたのかを確かめます。人数なのか、行動の回数なのか、経験者の中での平均なのか。分母を読むだけで、強い見出しに振り回されにくくなります。

DRD4、AVPR1A、セロトニンは同じ話ではない

DRD4はドーパミンD4受容体に関わる遺伝子です。AVPR1Aはバソプレシン受容体、OXTRはオキシトシン受容体に関わります。ここまで紹介した研究は、それぞれ異なる遺伝子や行動指標を扱っています。[3][4]

「脳内物質」「恋愛」「遺伝子」という言葉が共通していても、研究結果を相互に代用することはできません。DRD4の結果を、セロトニントランスポーターの型から浮気を判定できる根拠として紹介するのは不適切です。

セロトニントランスポーターと浮気の関係が気になる場合も、必要なのは具体的な原論文です。遺伝子名が書かれているだけでは足りません。対象者、浮気の定義、結果の再現、予測精度まで確認する必要があります。本記事で確認した直接的な浮気研究からは、セロトニントランスポーターを使った個人の浮気判定を支持できません。

似た言葉でも、測っているものが違う

性的パートナー数が多いことと、約束を破ることは同じではありません。交際を終えてから別の相手と付き合う場合もあれば、二人で合意した関係の形もあります。人数だけでは、秘密や約束違反の有無は分かりません。

感情的な親密さ、オンラインでのやり取り、関係外の性交も、同じ指標ではありません。研究のタイトルに恋愛や性行動とあっても、自分が困っている出来事に、そのまま対応するとは限らないのです。

大規模なゲノム研究でも「裏切りの検査」にはならない

Karlsson Linnérらの2019年の研究は、全体で100万人超のデータを用い、リスク許容度などをゲノム全体で調べました。性的パートナー数も扱っていますが、これは特定の相手への約束違反を測ることと同じではありません。[5]

サンプルが大きいことは重要です。ただし、何を測ったかという問題を、大きさで埋め合わせることはできません。体温計を何万台集めても、それだけで相手の本音を測れるようにはならない。研究でも、測定対象と知りたい対象が一致しているかを先に確かめます。

NHGRIは、多数の遺伝的変異を使うポリジェニック・リスク・スコアについて、環境などを含まない遺伝情報に基づく統計的な評価であり、疾病予測の一要因だと説明しています。これは医療上の説明であって、浮気を予測する検査の有効性を示すものではありません。[6]

「遺伝子を読める」と「知りたいことが分かる」の間には距離があります。測定技術が精密でも、その結果から浮気を予測する根拠が弱ければ、判断まで精密になるわけではありません。

科学記事を読むための四つの確認窓

次の図表は、論文や遺伝子検査の説明を読むときの整理です。相手を採点する診断ではありません。気になる項目を開き、見出しと本文の間に飛躍がないか確かめてください。

EVIDENCE / FOUR QUESTIONS

その結論は、どこまで言えますか?

01 対象|誰を調べた研究か

大学生、女性の双生児、特定の国の参加者など、対象を確認します。その集団での結果を、すべての人へ広げていないでしょうか。

02 測定|何を「浮気」と数えたか

性的パートナー数、関係外の性的行動、感情的な親密さは別の指標です。自分が知りたい約束違反を、実際に測っているか確かめます。

03 数字|分母と不確実性は何か

全参加者か、経験者だけか。遺伝率か、行動の割合か。有意差の有無や推定の幅も含めて読みます。「倍」という見出しだけでは結論を決めません。

04 応用|個人の予測を検証したか

関連の発見と、未知の個人への予測は別です。別の集団でも予測できるか、間違って判定する場合はどれほどあるかを確認します。

論文を読み解くための編集上の整理です。浮気の診断・危険度判定・遺伝子検査ではありません。

「分からない」は、隠れた断定ではない

有意な差が出なかった結果は、「絶対に関係がない」と同じではありません。反対に、有意だった結果も「原因が確定した」「誰にでも当てはまる」と同じではありません。

この二つを両方守ると、結論が弱くなったように感じるかもしれません。しかし、不確実な部分を残すことは、研究を否定することではありません。どこに追加の調査が必要なのかを、正確に示すことです。

遺伝の説明と、関係を続ける判断を分ける

ここからは研究結果そのものではなく、日常の判断への応用です。遺伝的な背景の可能性を認めることと、約束違反を受け入れることは別の問題です。

「なぜその行動が起きたか」は原因についての問いです。「その行動が自分を傷つけたか」「今後どのような関係を望むか」は、関係をどう扱うかの問いです。前者にまだ答えがなくても、後者について考えることはできます。

相手の遺伝子を確かめなくても、実際に何が起きたか、説明が変わっていないか、約束が共有されているか、今後の行動が伴っているかは話題にできます。家族を疑うことに時間を使うより、現在の出来事を具体的に整理するほうが、判断材料になります。

カフェで落ち着いて話し合う二人のイメージ

「親がそうだった」だけで子どもを裁かない

親の浮気を知っていることは、その子どもが何をしたかの証拠ではありません。「家系だから」と言われた側は、自分がしていないことまで弁明する立場になります。実際の行動を確かめる話が、変えられない出自を問う話に移ってしまいます。

逆に、自分の親に浮気の経験があるからといって、自分の将来を決めつける必要もありません。この記事の研究は、特定の家族の未来を宣告するものではありません。親と自分の行動を、別々のものとして扱って構いません。

原因の追究より先に、整理できること

  • 事実:自分が確認した出来事と、想像していることを分けます。
  • 合意:何を約束違反と考えるか、二人の認識を具体的にします。
  • 影響:睡眠、仕事、安心感など、自分の生活に起きていることを整理します。
  • 今後:謝罪の言葉だけでなく、変える行動と確認する時点を考えます。

これは相手を監視し続けるための手順ではありません。パスワードや遺伝情報の提出を求めることを、信頼回復の必須条件にする必要もありません。会話自体が怖い場合は、無理に一人で対決せず、信頼できる人や相談先と整理してください。

浮気を許すか迷っている方へ:信頼回復を考える条件と進め方

繰り返す行動が気になる方へ:浮気と脳の研究を読む際の注意点

強い説明に飛びつかないための読書

「遺伝子が原因」と聞くと、一つの説明で複雑な出来事が片づいたように感じることがあります。そんなときに判断の仕方を学びたい方には、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー 上』が読書の候補になります。出版社は、直感や判断エラーのパターンを扱う本として紹介しています。[7]

浮気の遺伝学を解説する専門書ではありません。ここで紹介した個々の研究の根拠には、参考文献の原論文を使ってください。本は、数字やもっともらしい説明を受け取る自分の判断について、考える入口として選べます。

分かれ道で立ち止まり自分の選択を考える人のイメージ

よくある質問

Q
浮気する親の子どもは、浮気しやすいと決めてよいですか?
A

決めつけることはできません。集団の遺伝率は、その子どもの将来の浮気確率ではありません。家族の経験と本人が実際にしたことを分けて考えてください。

Q
遺伝率62%なら、残り38%は本人の努力ですか?
A

そうは読めません。遺伝率は集団のばらつきに関する推定で、個人の努力や責任を割合にした数字ではありません。残りをそのまま努力の割合と解釈することもできません。

Q
遺伝子検査で、恋人が浮気するか分かりますか?
A

本記事で確認した研究は、恋人の将来の浮気を実用的な精度で判定できる検査を示していません。遺伝子を測定できることと、浮気を予測できることは別です。

Q
遺伝が関わるなら、浮気を許さなければいけませんか?
A

許す義務につながる話ではありません。行動の背景についての説明と、約束違反をどう受け止めるかは別です。関係を続けるかどうかは、実際の行動、自分への影響、今後望む関係を踏まえて考えられます。

遺伝子は、相手の誠実さを読む近道ではない

浮気に関する遺伝研究を読む価値は、「逃れられない血筋」を発見することにありません。人間の行動に生物学的な背景がありうることを知りながら、そこから言えないことも見分ける点にあります。

集団の違いと、一人の未来。性的行動と、約束を破ること。原因を説明することと、その行動を受け入れること。この区別を保てば、研究は相手を決めつける道具ではなく、強い言葉に判断を奪われないための助けになります。

参考文献・一次資料

1. MedlinePlus Genetics. What is heritability? 原文を読む

2. Cherkas et al. (2004). Genetic Influences on Female Infidelity and Number of Sexual Partners in Humans. Twin Research, 7, 649–658. 原文を読む

3. Zietsch et al. (2015). Genetic analysis of human extrapair mating: heritability, between-sex correlation, and receptor genes for vasopressin and oxytocin. Evolution and Human Behavior, 36, 130–136. 原文を読む

4. Garcia et al. (2010). Associations between Dopamine D4 Receptor Gene Variation with Both Infidelity and Sexual Promiscuity. PLOS ONE, 5, e14162. 原文を読む

5. Karlsson Linnér et al. (2019). Genome-wide association analyses of risk tolerance and risky behaviors in over 1 million individuals identify hundreds of loci and shared genetic influences. Nature Genetics, 51, 245–257. 原文を読む

6. NHGRI. Polygenic Risk Score (PRS). 原文を読む

7. 早川書房『ファスト&スロー 上』書誌・内容紹介。 原文を読む

VIVA

Writer & Visual Artist based in Japan.

Former JGSDF member with professional experience in web writing and editorial direction.

Writing about relationships, communication, and human behavior, with a focus on research-informed perspectives, thoughtful analysis, and practical insights.

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