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さっき確認したばかりなのに、また開いてしまう。新しい返信はない。閉じる。それなのに、数分後には同じ画面を見ている。
マッチングアプリで困るのは、長時間使った日だけではありません。食事中も、仕事の切れ目も、寝る直前も、頭の片隅に「何か来ているかも」が残る。実際に触っている時間以上に、待っている感覚が一日を占めることがあります。
その理由を「ドーパミンが出すぎているから」と説明すると、分かった気になります。でも、開いた回数から脳内物質の量は分かりません。 脳科学の説明を知ることと、自分の生活で何を変えればよいかを知ることは、別の課題です。
この記事では、報酬を学ぶ脳の研究、SNSへの反応を調べた脳画像研究、スマホの使い方を変える実験を分けて読みます。そのうえで、「どんな場面で開き、何を確かめ、何が後回しになったか」から、現実的な工夫を考えます。
- ドーパミンは、アプリ依存の程度を表すメーターではありません。
- SNSの脳画像研究だけで、成人のマッチングアプリ利用を診断することはできません。
- 使う環境を変えた実験はあります。ただし、特定の設定だけで誰にでも効くとまでは分かっていません。
- 目標は「一度も開かない人」になることより、使いたい時間と守りたい生活を自分で選び直すことです。

「アプリ依存」という言葉の前に、困りごとの確認
使用時間だけでは見えない負担
一時間かけて、会う約束や日程を丁寧に相談する日もあります。一方、数十秒の確認を何度も挟んで、仕事や食事に戻りにくい日もあるでしょう。合計時間だけを見ると、後者の困りごとを取りこぼします。
ここで扱う「何度も開く」は日常の行動の説明であり、病名の判定ではありません。利用時間が長いこと、好きな人からの返信が気になること、生活に支障があっても調整しにくいことは、同じではありません。
まずは「依存かどうか」を一人で決めるより、何を守りたいのに守れなくなっているかを具体的にしてみてください。
- 睡眠:閉じるつもりの時刻を過ぎ、翌朝に響いていないか。
- 集中:作業の途中に確認が入り、再開する負担が増えていないか。
- 関係:目の前の人との会話より、画面の反応が優先されていないか。
- お金:予算を決めても、その場の不安で追加購入していないか。
- 選択:自分で休もうと思ったとき、無理なく休めるか。
これは該当数を数える診断表ではありません。ひとつでも大きな支障が続くなら、その問題を扱う理由になります。逆に、一度の夜更かしだけで、自分を「壊れた脳」と見なす必要もありません。
開く理由は、毎回同じとは限らない
相手の返事を読みたい。新しい出会いが欲しい。退屈を埋めたい。嫌われていないと確かめたい。気づけば指が動いていた。
画面上は同じ起動でも、目的は違います。返信の時間を決めるだけで楽になる人もいれば、相手との連絡の期待をすり合わせるほうが大切な人もいます。すべてを一つの脳内物質で説明すると、こうした違いが見えなくなります。
ドーパミン研究が教えること、教えないこと
報酬予測誤差は「気持ちよさの量」ではない
Schultzらの1997年の研究は、霊長類のドーパミン神経の活動と報酬の予測を結びつけた代表的な論文です。予想と実際の報酬のずれを伝える信号として、神経活動を捉えています。マッチングアプリを使う人の分泌量を測った研究ではありません。[1]
この「報酬予測誤差」という考え方を理解するには、よかった出来事そのものと、予想外だったことを分けるとよいでしょう。期待していなかった嬉しい知らせは、いつも通りの知らせとは違って感じられます。
ただし、その日常例から「返信が来るたびに、この量のドーパミンが出る」と計算することはできません。まして、通知の回数をそのまま分泌の回数や依存の程度に読み替えることもできません。
研究は、行動を考える手がかりになります。個人の脳の状態を言い当てる道具にはなりません。
「報酬系が反応した」から「依存」への飛躍
Shermanらは、Instagramを模した課題で、青年期の参加者が写真に付いた「いいね」の数にどう反応するかを調べました。多くの「いいね」が付いた写真では、参加者自身も「いいね」を付けやすく、報酬などに関わる領域の活動の違いも報告されています。[2]
この結果は、周囲の評価が行動や脳の反応に関係することを考える材料です。しかし、対象は成人の婚活アプリ利用者ではありません。「いいね」が多い写真を見る課題と、日常で相手の返事を待ち続けることも同じではありません。
また、fMRIによる活動の指標は、そのままドーパミンの分泌量を示すものではありません。報酬に関わる領域の反応を見つけたことと、その人に依存症があることは別です。
研究の紹介で確かめたいのは、専門用語の迫力よりも、誰が、何をしているときに、何を測ったのかです。
神経活動の研究 [1]
対象:霊長類の報酬学習。調べたもの:ドーパミン神経の活動と予測。
分からないこと:あなたがアプリを開いたときの分泌量。
SNSの脳画像研究 [2]
対象:青年期の参加者。課題:Instagramを模した写真評価。
分からないこと:成人の婚活アプリ利用の診断や、ドーパミンの過剰分泌。
使い方を変える実験 [3][4]
対象:スマホ利用者。調べたもの:介入後の使用・注意・生活など。
分からないこと:どの人にも効く単一の設定や、脳のリセット。
この比較で分かるのは、「脳研究には意味がない」ということではありません。それぞれが答えられる問いを守るほど、現実に使える知識になるということです。
関連:ドーパミンと恋愛の関係――欲しい気持ちと、得られる幸福の違い
「何度も開く」を、生活の場面に戻して考える
起動の前・直後・その後の三つの時点
ここからは、自分の使い方を整理するための提案です。検証済みの診断尺度ではありません。脳内で何が起きたかを推測する代わりに、実際に観察できることを残します。

たとえば「夕食後、通知は来ていなかった。返信が気になって開いた。何もなく、また気になった。片付けが遅れた」。これだけでも、「一日40分使った」という記録とは違う情報があります。
- 開く前:どこにいたか。何をしていたか。通知、退屈、不安、用事のどれが近かったか。
- 開いた直後:何を確認したか。用事は終わったか。気分や疑問はどう変わったか。
- その後:予定していたことに戻れたか。睡眠や作業を後回しにしたか。
正確な回数を一日中監視する必要はありません。気になる場面を一つ選び、短くメモする程度から始めます。記録そのものが新しい確認作業になったら、項目を減らして構いません。
安心を求める確認には、終了条件がないことも
「今日の待ち合わせ場所を読む」なら、確認の終わりが分かります。「この人は私をどう思っているか」を画面から確かめようとすると、一度開いただけでは答えが出ないかもしれません。
そこでまた開く。でも、更新がないことは、新しい判断材料ではありません。自分の気持ちを落ち着かせたいのに、同じ不確実さを何度も見に行く形になることがあります。
これは特定の神経活動を測った説明ではなく、行動の目的からの整理です。こうした場面では、起動を減らす工夫と、答えの出ない問いをいったん置く工夫を分けて考えます。
「返事が来たら読む。今はまだ分からない」。この区切りは、自分の価値を下げる判断ではありません。今の画面では答えが出ないことを、画面の外へ持ち出さないための区切りです。
アプリを開くことと、出会いが進むことの違い
一回開いたから、一回分だけ関係が深まるわけではありません。返事を考える、予定を相談する、自分に合わない相手とのやり取りを終える。こうした具体的な用事が進んだかで、利用を振り返る方法もあります。
一方で、娯楽として眺める時間まで、すべて成果に変える必要はありません。問題は「暇つぶしは悪い」ということではなく、暇つぶしのつもりが、守りたかった時間を越えていないかです。
関連:マッチングアプリのゲーミフィケーションと「次の一人」を追う心理
使い方を変えた実験から、何を持ち帰るか
複数の小さな変更を組み合わせた研究
Olsonらの研究では、不要な通知を切る、画面をグレースケールにするなど、10種類の工夫から参加者が取り組むものを選びました。第2研究の解析対象は70人で、使用時間を記録する対照群に比べ、問題のあるスマホ利用の指標や使用時間が減り、睡眠の質の改善も報告されています。複数の工夫をまとめた介入なので、「白黒表示だけで改善する」と切り分けることはできません。[3]
ここから日常へ持ち帰れるのは、意思の強さを毎回試すだけでなく、使う環境に手を入れるという発想です。ただし、この研究はマッチングアプリに限定した治療試験ではありません。紹介された工夫を真似すれば、同じ結果になるという保証もありません。
2週間の通信制限と、実行の難しさ
Casteloらの2025年の無作為化比較試験では、スマホのインターネット接続を2週間遮断する介入を調べています。通話・SMSや、パソコンなどからのネット利用は残す設計でした。主観的な幸福感、精神的健康、持続的注意に改善が報告されています。ただし、研究開始時に参加を約束した467人のうち、事前に定めた遵守基準を満たしたのは119人、約25.5%でした。[4]
結果の方向だけでなく、実行できた人の割合にも目を向けたいところです。スマホには仕事、地図、決済、家族との連絡も入っています。接続を切ることは、生活によって難しさが大きく違います。
この結果を「アプリを二週間消せば脳がリセットされる」と言い換えるのは行き過ぎです。測った結果も、介入の範囲も違います。日常では、必要な連絡を確保しながら、負担の大きい場面を一つ変えるところから考えられます。
最初に変えるなら、困っている一場面
寝る前に開くなら、置く場所と連絡経路
ベッドに入ってから起動を我慢するより、充電する場所を変えるほうが取り組みやすい人もいます。寝室の外が難しければ、手を伸ばすだけでは届かない場所に置く方法もあります。
ただし、緊急の電話や家族の連絡まで遮断する必要はありません。目覚まし、仕事の待機、ケアの役割など、自分に必要な機能を先に確かめます。スマホを遠ざけること自体を目的にすると、生活に合わない制限になってしまいます。

通知で開くなら、通知の種類を分ける
会う約束に関わるメッセージと、おすすめ紹介やキャンペーンは役割が違います。設定できる範囲で、後者の通知を減らしてみる余地があります。通知の種類を分けられないアプリなら、確認時間を自分で設ける方法も候補です。
「一日二回が正解」と固定する必要はありません。仕事の予定や、すでにしている約束に合う間隔を考えます。会う当日の連絡と、相手を探して眺める時間は、同じ制限にしなくてもよいのです。
通知がなくても開くなら、用事を一言に
画面に触れる前に「何をしに行くか」を一言にしてみます。「土曜の時間を返信する」「届いた返事を読む」。用事が終わったら、いったん閉じる区切りができます。
理由が「落ち着かないから」なら、その気分も否定しなくて構いません。ただ、いま開くことで分かる新しいことがあるかは、別に確かめます。何もないなら、飲み物を用意する、席を立つ、目の前の作業を一つ終えるなど、別の行動を先に選んでみます。
これは不安を必ず消す技法ではありません。「不安がある間はずっと確認する」という一択から、選べる行動を増やすための提案です。
標準機能で、時間の見当をつける
iPhoneにはスクリーンタイム、AndroidにはDigital Wellbeingがあります。利用状況の確認や、対応するアプリの時間制限などに使えます。表示や利用できる項目は、端末やOSによって異なります。[5][6]
上限を設定するなら、理想の数字より、守りたい予定から考えてみてください。「寝る前の支度を始める時刻」「仕事に戻る時刻」のほうが、生活上の意味が分かりやすいこともあります。
制限を解除した日があっても、そこで記録を失敗扱いにしなくて大丈夫です。用事が長引いたのか、退屈だったのか、不安だったのか。理由を見れば、次に変える場所が違ってきます。
休んだ時間に、何を戻すか

スマホを閉じたあとの時間を、空白のまま耐え抜く必要はありません。読みかけの本、散歩、友人との食事、予定していた家事。もともとしたかったことを、ひとつ戻してみます。
「利用時間が減った」だけでは、暮らしが楽になったかは分かりません。別のアプリを同じように見続けたのかもしれないし、スマホを閉じても返事のことを考え続けていたかもしれません。
そこで、振り返る問いを少し変えます。
- 予定していた時刻に眠る準備を始められたか。
- 一つの作業や会話を、途中で何度も切らずに続けられたか。
- アプリを使ったあと、必要な用事が進んだと感じられたか。
- 使わない時間に、自分で選んだことができたか。
使用を減らすことより、生活を取り戻すことを先に置く。この順序なら、必要な連絡まで削る競争になりにくくなります。
関連:マッチングアプリ疲れ――休む・続ける・使い方を変える判断
もう少し読みたい人へ

スマホと注意の関係を日本語で広く考えたいなら、アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳『スマホ脳』が一つの入口です。新潮社の紹介・目次では、ドーパミン、SNS、集中などが扱われています。[7]
ただし、本の分かりやすい説明と、個々の実験が確かめた範囲は分けて読むのがおすすめです。「誰を調べた話か」「相関か介入実験か」「自分の困りごとと同じか」。この記事の三つの問いを持って読むと、刺激的な言葉だけで自分の状態を決めつけずに済みます。
一般向けの読書が目的の方に向く本です。診断や個別の治療を求めている場合は、本の購入だけで解決しようとせず、相談先につなげてください。商品リンクには電子書籍も含まれるため、購入前に形式を確認できます。
自分だけで調整しづらいときの相談先
睡眠や仕事、学業への大きな支障が続く。支出を抑えたいのに調整できない。気分の落ち込みも強い。そんなときは、「設定を変えれば済むはず」と一人で抱え込む必要はありません。
久里浜医療センターにはインターネット依存治療部門があり、受診案内を公開しています。受診の条件や予約方法は公式案内を確認してください。[8] 身近な医療機関や地域の相談窓口で、生活への影響を伝えて相談する方法もあります。
伝える内容は、推測したドーパミン量ではなく、「いつから」「何ができなくなったか」「どんな工夫を試したか」で十分です。困りごとを具体的に話すことが、次の対応を考える材料になります。
よくある疑問
- Qアプリを何度も開くのは、ドーパミンが出すぎているからですか?
- A
開いた回数や気分だけで、ドーパミンの分泌量は判断できません。報酬学習の研究は説明の手がかりになりますが、個人のアプリ利用の原因を一つに確定するものではありません。まずは開く場面と生活への影響を確認してください。
- Q一日何時間なら依存ですか?
- A
この記事では時間だけで依存を判定しません。必要な連絡に時間がかかる場合もあります。睡眠や仕事への支障が続くか、休もうと思っても調整しにくいかなど、困っている内容を具体的に捉えることが大切です。
- Q白黒表示にすれば、使いすぎは改善しますか?
- A
複数の工夫を組み合わせた研究はありますが、白黒表示だけの効果を示したものとして読むことはできません。見やすさや必要な用途も考え、自分に合う小さな変更として試す余地があります。
- Qマッチングアプリは退会したほうがよいですか?
- A
退会だけが選択肢ではありません。通知の見直し、一時的な休止、使う目的の整理などもあります。ただし大きな支障が続く場合は、無理に利用を続けず相談も検討してください。退会と有料契約の解約が別の手続きになっていないか、公式案内で確認しましょう。
脳を責めるより、次の一回を変える
脳の仕組みを知ると、行動を道徳や根性だけで語らずに済みます。その一方で、「脳がこうだから仕方がない」と、自分の選択肢を狭めてしまってはもったいない。
今日できるのは、頭の中の物質を測ることではなく、困っている一場面を見つけることです。寝る前なのか。通知の直後なのか。返信がないと分かったあと、また確かめる瞬間なのか。
その場面に、小さな区切りを一つ置く。必要な連絡は残し、守りたい時間を先に決める。出会いを探すことと、一日をずっと待ち時間にすることは、同じではありません。
参考文献・一次資料
[1] Schultz, W., Dayan, P., & Montague, P. R.(1997)A Neural Substrate of Prediction and Reward. Science, 275, 1593–1599. 原文を読む
[2] Sherman, L. E. et al.(2016)The Power of the Like in Adolescence: Effects of Peer Influence on Neural and Behavioral Responses to Social Media. Psychological Science, 27, 1027–1035. 原文を読む
[3] Olson, J. A. et al.(2022年オンライン公開)A Nudge-Based Intervention to Reduce Problematic Smartphone Use: Randomised Controlled Trial. 原文を読む
[4] Castelo, N. et al.(2025)Blocking mobile internet on smartphones improves sustained attention, mental health, and subjective well-being. PNAS Nexus, 4, pgaf017. 原文を読む
[5] Apple「iPhoneのスクリーンタイムを使ってみる」 原文を読む
[6] Google「Digital WellbeingでAndroidスマートフォンの使用パターンを管理する」 原文を読む
[7] 新潮社『スマホ脳』書誌・目次 原文を読む
[8] 久里浜医療センター「インターネット依存治療部門:受診案内」 原文を読む
